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バンコマイシン耐性腸球菌

あの八戸市民が救急車受け入れ(3次は除く)を制限せざるを得ない状況です。
また、八戸赤十字でも同時期にVREが検出されているようです。
今のところ、詳細な情報はないのでなんとも言えませんが、こうした機会に復習してみることは大事なことです。

<まず基本知識の整理>
腸球菌は特に病院内感染症の主要な原因(検出)菌の一つで、尿路感染、術後含む腹腔内感染、手術部位感染、菌血症などを引き起こします。
また感染性心内膜炎の原因としても重要です。
E. faecalisE. faeciumの2種類が主に分離されます。この属の多くが内因性耐性機序(PBPなど)を有し、セフェム系に自然耐性を有します。
前者ならABPCに感受性ですが、後者はABPC耐性であり、もし治療するならバンコマイシンで治療が行われます。
カテーテルや手術に加え、抗菌薬の曝露機会が多いことが発症リスクと関連し、院内感染において非常に重要な微生物です。
ただ、基本的には健常者でも腸管や口腔内に保有しており、病原性は非常に弱いです。通常上記のようなリスク(+αの宿主要因)がなければ
健常者に感染症を発症することは極めて稀です。
このうち、key drugであるバンコマイシンに耐性をもつものがVRE(Vancomycin Resistant Enterococcus)で、これによる感染は感染症法による全数把握の五類感染症です。
基本的にそのほとんどが保菌者ですが、術後感染や血流感染などで治療を行う場合には、カテーテルや人工物の除去などのソースコントロールとともに、感受性結果及び患者の状態を判断し、リネゾリドなどを選択することになります。リネゾリド耐性化も報告されており、保菌者へのリネゾリドなどの除菌や予防投与は×です。 ただもっとも懸念されるのは腸球菌の治療が困難となること(ほとんどの場合、治療対象になることがない)よりも、その耐性遺伝子(VanA, VanB)が黄色ブドウ球菌などへ移ってしまうことであり、これらを保有する株がむやみやたらに増えないように検出率を低く維持することこそが重要です。だから耐性遺伝子の確認が必要です。
さて、バンコマイシンの使用量などを背景としてか、アメリカでは分離頻度が極めて高い(8割弱)一方、本邦では0.7%程度と非常に稀で、届出数も50-60例/年で推移しており、保菌者の隔離措置などを適切に行うことで拡大を抑制できているものと考えられます。またバンコマイシンの使用量の増加も現時点では認められず、こうした一つ一つのケースに対して適切に介入・対応を行うことと、適切な抗菌薬使用を努めることが非常に重要です。

<感染制御>
さて、やっかいなのがその院内感染予防策です。
ほとんどの患者は感染症を発症しないため、静かに広がっていきます。感染が疑われる患者(その場合も実際は保菌である可能性がありますが)の培養で初めてVREが検出され、調べるとすでに広がってしまった状態であることに気がつくわけです。
繰り返しますが、多くの場合保菌のみであり、一律にすべての患者にスクリーニングを行うことは費用的にも効果的にも問題があり、推奨されません。(なんらかの疫学調査や、すでに複数の病棟をまたいでアウトブレイクを生じているケースは仕方がない。)そこから高リスク患者への伝播と過剰な拡大を抑制するため、標準予防策+接触予防策の徹底を行います。基本的には糞便中に存在していますが、患者および医療従事者の手などを介して拡大します。患者のコホーティング(退院可能な方は退院)、高リスク患者におけるスクリーニングを行いますが、すでに感染が拡大している場合、専用の病棟を設定することまで考慮するようです。
保菌状態は数カ月から数年以上続くため、保菌者の退院のみが終息と言えますし、患者の再入院の際には個室管理+接触予防策の徹底が必要になることは言うまでもありません。この辺り患者および患者の家族にご理解いただく必要がありますし、近隣の病院との連携も重要ですから、アウトブレイクの際だけでなくICTとしての力が必要とされる耐性菌です。

一度ニュースになるとマスコミ含めて騒がれますが、何度も繰り返すように腸球菌は病原性の弱い菌です。必要以上に恐れる必要はありません。
(本当に、いつも腸球菌と緑膿菌はかわいそうな微生物だと思います。そりゃ時々牙を向きたくもなるでしょう。)
きっと調べていないだけで市中にはたくさんVREがいるはずです。0になんかなりません。(むしろ感染を起こされるとやっかいな患者をVREから隔離してしまう方がreasonableなのかもしれません。)
大事なことはこうした耐性菌が選択されてこないように適切な抗菌薬使用に努めること、そして標準予防策(必要に応じて接触予防策)を徹底することです。

改めて色々勉強してみました。(私見も入っていますし、後でしれっと修正を加えているかもしれません。)感染制御・感染管理の分野にはようやくこれから少しずつ関与していきたいと思っています。必要な知識もスキルも単なる臨床医のそれを遥かに凌ぐレベルが必要なので、なんとか食らいついていきたいです。


参考文献:
1)感染症専門医テキスト改訂第2版, 南江堂
2)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072937.pdf
3)薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2018Nippon AMR One Health Report (NAOR)
4)Patel R. Clinical impact of vancomycin-resistant enterococci. The Journal of antimicrobial chemotherapy. 2003;51 Suppl 3:iii13-21.
5)Ridwan B, Mascini E, van Der Reijden N, Verhoef J, Bonten M. What action should be taken to prevent spread of vancomycin resistant enterococci in European hospitals? BMJ (Clinical research ed). 2002;324(7338):666-8.
6)Lemmen SW, Lewalter K. Antibiotic stewardship and horizontal infection control are more effective than screening, isolation and eradication. Infection. 2018;46(5):581-90.
7)Frakking FNJ, Bril WS, Sinnige JC, Klooster JEV, de Jong BAW, van Hannen EJ, et al. Recommendations for the successful control of a large outbreak of vancomycin-resistant Enterococcus faecium in a non-endemic hospital setting. The Journal of hospital infection. 2018;100(4):e216-e25.


by vice_versa888 | 2019-02-08 22:43 | 感染制御 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888