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整形外科領域(骨・関節)感染症に対する経口抗菌薬治療

非常に長期の治療を要する疾患であり、条件さえ整えば経口抗菌薬治療が可能であることを大規模臨床試験で示したのは非常に重要。
OPAT(Outpatient Parenteral Antimicrobial Therapy)が十分に広まっていない本邦にとっても大事な結果です。
ただ、どの抗菌薬を使用するかということはまた別の問題です。最も多いのがキノロン(+α)だったようですが、それが良いのか悪いのか。
早期退院や点滴をなくしたい、非常に限定された対象(除外基準を満たさない)について、早めに経口スイッチを検討する時の不安感が払拭されたという感じでしょうか。せめてペニシリン系を中心に治療したい。
また単純な費用は削減できますが、QALYs(Quality Adjusted Life years)は変わりません。

【背景】整形領域の複雑感染症においては、しばしば長期の抗菌薬静脈内投与が行われる。これらの疾患に対し、抗菌薬の経口投与が静脈内投与に劣らないかどうかを調査した。

【方法】イギリスの26の施設で骨や関節の感染症の治療を受けていた成人を登録した。手術後7日以内(手術を行わない場合は治療開始後7日以内)に、参加者は無作為に抗菌薬の静脈内または経口投与を受け、6週間の治療を行なった。6週後の経口抗菌薬治療は両方のグループで許容された。主要評価項目は、無作為化後1年以内の治療失敗でした。主要評価項目のリスクの分析における非劣性マージンは7.5%ptとした。

敗血症性ショックやその他の静脈内治療を必要とする感染症を有するケースは除外。逆に軽度であり、6週間以内に治療が完遂できるケースも除外された。その他の理由を含め、評価対象者は2077人→1449、ランダム化対象者は1054人。
また当然ながらオープンラベル試験となる。

【結果】1054人の試験参加者(各グループ527人)のうち、1015人(96.3%)のエンドポイントデータが利用可能であった。静脈内投与群では506人中74人(14.6%)、経口投与では509人中67人(13.2%)に治療失敗が発生した(両群の総投与期間に差はない。)。欠落しているエンドポイントデータ(39人の参加者、3.7%)が補完された。ITT解析では、最終的な治療失敗のリスクの差が-1.4%pt(経口群対静脈内投与群、90%CI:-4.9 to 2.2; 95%CI:-5.6 to 2.9)となり、非劣性が示された。完全ケース分析、per-protocol分析、および感度分析によってこの結果が裏付けられた。重篤な有害事象の発生率における群間差は有意ではなかった(静脈内投与群で527人中146人[27.7%]、経口投与群で527人中138人[26.2%]; P = 0.58)。副次的評価項目として分析されたカテーテル合併症は静脈内投与群でより多かった(9.4% vs. 1.0%)。

検出された菌の大半はGPC(黄色ブドウ球菌が4割弱、CNSが3割弱、レンサ球菌が15%。緑膿菌は5%程度)
6割が金属材料に関連する感染症だった。糖尿病患者も2割程度含まれているが群間差はない。
リファンピシンは約半数の患者で使用されていたが、経口投与群でやや早期に投与が開始されていた。
もちろん1年以上の長期再発については不明。

【結論】抗菌薬経口投与は、整形外科領域の複雑感染症に対して最初の6週間に使用された場合、1年後の治療失敗について静脈内抗生物質療法に劣らなかった。

また感染性心内膜炎に対する経口抗菌薬治療の非劣性が同じくNEJMで発表されている(後日紹介予定)。
どちらも長期に抗菌薬治療を要する疾患であるため経口治療は魅力的だが、適切な抗菌薬選択を行わなければ(バイオアベイラビリティおよびスペクトラムの問題)、治療効果だけでなく耐性菌を産む原因になりかねないため、患者選択と抗菌薬選択は重要だと思います。

by vice_versa888 | 2019-02-13 17:18 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888