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インフルエンザ重症例においてoseltamivir早期治療は予後を改善するか 

ギリシャのICU入室患者における大規模コホートです。


【背景】ノイラミニダーゼ阻害薬がインフルエンザ患者の死亡率を低下させるかどうかについての明確なエビデンスは乏しく、 A/H1N1pdm09にのみ焦点を当てているものが多い。すべてのタイプのインフルエンザの重症患者の大規模コホートにおいて、早期オセルタミビル治療(症状の発症から48時間以内)が後期治療と比較して死亡率を低下させるかどうかを評価した。

【方法】ギリシャのICUに8シーズン(2010年 - 2011年から2017年 - 2018年)の間に入院し、オセルタミビルで治療されたインフルエンザ診断確定(PCR)の成人全員が含まれた。早期オセルタミビルと死亡率との関連性は対数二項モデル、ならびに死亡および退院について競合リスク分析を用いて評価した。影響の推定値はインフルエンザの種類によって層別化され、複数の共変量について調整された。

【結果】1330人の患者が対象となった。そのうち622人(46.8%)がICUで死亡した。 A/H3N2型インフルエンザ患者では、早期治療は有意に低い死亡率と関連していた(相対リスク 0.69、95%CrI 0.49-0.94; sHR0.58、95%CI 0.37-0.88)。これは退院に関する原因別HRの増加によるものであり、死亡に対する原因別HRは増加しなかった。生存者では、ICU滞在期間の中央値は早期治療で1.8日短くなった(95%CI 0.5- 3.5)。 A/H1N1およびB型インフルエンザ患者について死亡率への影響は観察されなかった。

【結語】インフルエンザが疑われる重症患者は、特にA/H3N2の場合、直ちにオセルタミビルで治療されるべきである。オセルタミビルの有効性がすべての種類のインフルエンザに対して同等であるとは言えない。

H1N1pdm09については、以前のソ連型ほどのoseltamivir耐性は認められていません。しかし論文で引用されている過去のメタ解析(Health Technol Assess 2016; 20:1– 242. )の通り、H1N1について有効性が示されませんでした。以前の記事で紹介したマルチプレックス検査が臨床へどんどん拡大し、より早期にH1N1かH3N2かを判断できるようになります。今後の研究の展開次第では、重症例では早期に型を判別して、治療薬を使い分けるなんてこともありうるかもしれません(実現可能性は相当低いと思っています)。

40%強という非常に死亡率の高く、かなり均一な集団に対して死亡率の低下が示されなかったわけですが、ウイルスを早期に排除することが必ずしも予後を改善するわけでないということでしょうか(免疫調整効果については疑問)。治療しなくても多くの場合、ウイルス量は減少していくわけですし(逆にウイルス排泄が遅延するような患者では大事かもしれません)。であればbaloxavirについても重症例について既存の治療に対して予後の改善が予期できるかと言えば、たぶん困難でしょう。
ただし単純なH3N2同士の比較では有意に早期治療で死亡が少なく、Cumulative Incidenceは有意に低いわけなので、逆に早く治療しなくてもよいというわけではないです。
日本においては重症例で内服が困難だとPeramivirが使用されるケースが多いと思いますが、日本発でコホートが発表されるといいなあと思っています。

重症例には当然早期から抗インフルエンザ薬を使用しますが、予後改善には細菌感染への対応含む集学的治療(特にECMO)の向上のほうが大事かもしれません。それ以上に重要なことは、まだ死亡を防ぎうるかもしれないインフルエンザ患者が多く存在するということで、重症化のリスクがある方には積極的なワクチン接種が必要だということです。


by vice_versa888 | 2019-02-20 17:01 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888