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がん血栓症におけるDOAC(予防)

言うまでもなく、悪性腫瘍は静脈血栓塞栓症(VTE)の大きなリスク因子です。腫瘍細胞から生じる組織因子による過凝固の他、治療に用いられる薬剤も影響する。
もちろんDICの原因でもあります。原因が取り除かれないために慢性DICとなることもあります。
特に肺癌は固形癌の中でも血栓症のリスクが高く、下肢静脈血栓症や肺血栓塞栓症の合併を経験します(時に腫瘍そのものの影響も)。
また日本では低分子ヘパリンが使いにくいので、DOACが注目されています。
同じ雑誌(NEJM)に2つのDOAC(Xa阻害薬)に関する論文が掲載されたので紹介します。

先にKhoranaスコアについて紹介

Risk Score

がんの部位

胃、膵臓

2

肺、リンパ腫、婦人科、膀胱、精巣

1

血小板

350,000/µL

1

Hb<10 g/dL or 赤血球造血刺激製剤の使用

1

白血球

>11,000/µL

1

BMI

35 kg/m2

1


①Rivaroxaban(イグザレルト®️)

【背景】治療を受けている外来がん患者は様々な静脈血栓塞栓症のリスクをもっている。しかし、これらの患者における血栓予防の利点は明らかでない。

【方法】この二重盲検無作為化試験高リスクでは(Khoranaスコア≧2)の外来がん患者が対象となった。スクリーニング時に深部静脈血栓症を認めなかった患者にRivaroxaban(10 mg)またはプラセボを最大180日間毎日投与し、8週間ごとにスクリーニングした。主要評価項目は、客観的に確認された下肢の近位深部静脈血栓症、肺塞栓症、上肢の症候性深部静脈血栓症、および下肢の遠位深部静脈血栓症、ならびに静脈血栓塞栓症による死亡であった。同じ集団を対象としたsupportive analysisでは、介入期間中(最初の投与から最後の投与プラス2日間)に同じエンドポイントが評価された。安全性の主要評価項目はmajor-bleedingとした。

【結果】1080人の患者のうち、49人(4.5%)がスクリーニング時に血栓症を発症しており、無作為化を受けなかった。無作為化を受けた841人の患者のうち、主要評価項目は180日までにRivaroxaban群で25人(25/420, 6.0%)、プラセボ群で37人(37/421, 8.8%)に発生した(ハザード比 0.66; 95%CI 0.40-1.09; P=0.10)。介入期間におけるsupportive analysisでは、主要評価項目はRivaroxaban群の11人(2.6%)およびプラセボ群の27人(6.4%)に発生した(ハザード比 0.40; 95%CI 0.20-0.80)。major-bleedingは、リバロキサバン群の8人(4/405, 2.0%)およびプラセボ群の4人(4/404, 1.0%)に発生した(ハザード比1.96; 95%CI 0.59- 6.49)。

【結論】血栓症高リスクの外来がん患者では、Rivaroxabanによる治療によって、180日の試験期間中に静脈血栓塞栓症や静脈血栓塞栓症の発生および死亡が有意に低下することはなかった。介入期間を通してみると、Rivaroxabanは血栓症を大幅に低下させつつ、major-bleedingの発生率は低かった。

②Apixaban(エリキュース®️)

【背景】癌を有する患者は静脈血栓塞栓症の危険性が高く、罹患率が高いだけでなく、死亡、および医療費の増大をもたらす。 Khoranaスコアは、血栓症のリスクが高いがん患者を特定する目的で検証されており、血栓症予防治療により恩恵を受けうる人々の選択に役立つ可能性がある。

【方法】化学療法が開始された静脈血栓塞栓症のリスクが中程度以上(Khoranaスコア≧2)の外来患者における血栓予防のためのApixaban(1日2回2.5 mg)の有効性と安全性を評価する無作為化プラセボ対照二重盲検臨床試験を実施した。主要評価項目は、180日間の調査期間における客観的に認められた静脈血栓塞栓症とした。主要な安全性における評価項目はmajor-bleedingのエピソードとした。

【結果】無作為化を受けた574人の患者のうち、563人が修正ITT解析に含まれた。静脈血栓塞栓症は、Apixaban群の12人(12/288, 4.2%)およびプラセボ群の28人(28/288, 10.2%)に発生した(ハザード比 0.41; 95%CI 0.26-0.65; P < 0.001)。修正ITT解析では、Apixaban群の10人(3.5%)とプラセボ群の5人の患者(1.8%)でmajor-bleedingが発生した(ハザード比 2.00; 95%CI 1.01- 3.95; P= 0.046)。治療期間中に限ると、Apixaban群で6例(2.1%)、プラセボ群で3例(1.1%)にmajor-bleedingが発生した(ハザード比 1.89; 95%CI 0.39- 9.24)。

【結論】Apixaban治療は、化学療法を開始していた中等度以上の血栓症リスクを有する外来がん患者において、静脈血栓塞栓症をプラセボよりも有意に低下させた。major-bleedingの発現率は、プラセボよりもApixabanの方が高かった。

同じXa阻害薬ですが、含まれている患者の癌が異なる(前者は膵癌が多く、後者は婦人科系腫瘍が多かった)ことも多少影響しているものと考えます。前者は膵癌であるだけで組み入れ基準を満たしますが、後者の多くは他のリスク因子を有しています。過半数の患者でスコアが
2点であったので、後者のほうが血栓症リスクが高い方が多いのかもしれません(事実期間中のVTE発生率は後者のほうが大きい)。しかも前者は組み入れ時点で血栓症のスクリーニングを行い、すでに血栓のある患者を除いていることを加味する必要があります。

またRCTとして、出血リスクの高い患者はともに除外されています。担癌患者は血栓リスクだけでなく出血リスクも高いため、転移部位によってはリバースができないDOACの使用は注意が必要です。
現状、DOACを使用するとすればVTEが発症してからです。

出血リスクの増大は確実であり、Vienna-VTEなどのように凝固系検査などを加えてさらに高リスクの患者を選別することや、出血リスクを評価して、出血リスクの高い患者を除外する方法のさらなる検証が必要です。また年齢層や薬物代謝酵素の違いなどを背景にこうした結果をそのまま受け入れることの難しさもあり、こういったことこそ日本から腫瘍領域におけるRealWorld Dataが示されないだろうかと期待しています。

しかし、ほぼ同じタイミングであり、バチバチな感じがいいですね。


by vice_versa888 | 2019-03-18 16:46 | 一般内科 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888