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中等度以上の自然気胸に対する治療 

遅ればせながら読みました。呼吸器内科医は必読です。
何がすごいって、研究の目の付け所がすごいです。常識を疑うって大事。


【背景】合併症のない中程度から重症の自然気胸に対して、保存的治療が介入(すなわちドレナージ)治療の代替となりうるかは不明である。

【方法】非盲検、多施設共同非劣性試験。14歳から50歳までの初発、片側かつ中程度から重症(Collins法を用いた虚脱率≧32%)の自然気胸症例を登録した。患者は、介入群または保存観察群にランダムに割り当てられ、12ヶ月経過観察された。主要評価項目は8週間以内の肺の再膨張が得られるか、とした。

【結果】316人の患者がランダム化され、介入群に154人、保存治療群に162人が割り付けられた。保存治療群では25人の患者(15.4%)プロトコルで事前に指定された理由により介入を要し、137人(84.6%)が介入を受けなかった。途中で介入群の23人と保存治療群の37人の患者についてデータが得られなかった。これらを除く完全に追跡された症例分析では、介入群の129/131人(98.5%)と保存治療群の118/125人(94.4%)で8週間以内に再膨張が得られ(リスク差、-4.1%pt、95%CI、-8.6〜0.5、P = 0.02)、非劣性マージン下限-9%ptを満たした。56日後までのすべての欠落データを治療の失敗とみなす感度分析(介入群では129/138人(93.5%)、保存治療群では118/143人 (82.5%)ではリスク差は-11.0%pt(95%CI、-18.4〜-3.5)となり、事前に指定された非劣性マージンの範囲外となった。保存治療は介入的管理より重篤な有害事象および気胸再発のリスクを低下させた。

【結語】欠落データのためか主要評価項目は統計的に強固に有意ではなかったが、本研究により自然気胸において保存的治療が介入に非劣性で、重篤な有害事象のリスクが低いということが緩やかに示された。

介入群:<12Frのチューブで水封式ドレナージを行い、1時間後の肺膨張が得られリークがなければチューブを閉鎖し、4時間後に再評価
再発なければ帰宅
保存治療群:最低4時間の経過観察後、胸部X線写真を確認し、酸素不要で歩行可能なら帰宅
症状の持続、バイタルサインの不安定、胸部X線写真で気胸悪化・所見不安定なら介入

中等度以上ならドレナージ、という従来の常識を覆した論文です。追跡不可能だった患者は普通に考えれば治癒してしまったのだと思いますので、
リスク差は152/154(98.7%)と155/162(95.6%)なので、-3.1%とさらに小さくなります。
入院日数や休職期間を短縮できるのは治療選択肢として患者さんにとって魅力的です(もちろん10人に1人くらいは結局ドレナージを必要とするわけですが)
また細径のドレーンでも特に若い男性の患者さんは結構痛がるので、保存でもよいとなれば福音かもしれません。
それでも高度虚脱をそのまま保存でみるのは怖いので、ドレナージはせずとも穿刺吸引を行えば入院期間を短縮したり、より多くの患者さんを外来治療できるかもしれません(実際、どうしても入院が困難だった患者さんをそのようにみることはあります)。
気胸の程度や本人の症状をみて、中等度気胸でも外来での数時間経過観察や一泊入院での経過観察、穿刺吸引等も提案してみたいな、と思いました。

by vice_versa888 | 2020-02-20 23:11 | 呼吸器 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888