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結核の自然史

本邦において結核は減少傾向ではありますが、依然アメリカなどと比べると多く(12.3/人口10万人,2018)、中蔓延国と呼ばれています。
ただ、高齢者の占める割合が大きく、日本の高い高齢化率を反映しているものと考えられます。実際、老衰の経過で結核を発症し、病院で亡くなる方(結核死というより老衰死)もおられます。
一定の割合が感染した世代がいずれはいなくなり、近い将来低蔓延国になることが十分予想されます。
その一方で結核を診療したことのない若手医師が増えており(呼吸器内科も例外でなく)、診断・発見が遅れる症例が増加することを危惧しています(受診から診断までの期間が1ヶ月以上の症例が2割、発症から3ヶ月以上経過していた症例も2割程度と報告されています)。

今回は結核の自然史(Natural History)を振り返った論文を取り上げます。

【背景】結核患者を治療せずに追跡調査することは倫理に反するため、新たな調査は不可能である。

【方法】化学療法が行われるより前の時代の研究を対象としたシステマティックレビューで確認された報告を検討し、経時的な死亡率に関する詳細なデータを抽出した。ベイズ的枠組みを用いて、結核による死亡率と自己治癒率を推定した。推定値がコホートによって異なるように階層モデルを採用した。推定は塗抹陽性結核(SP-TB)と塗抹陰性結核(SN-TB)に分けて行った。

【結果】SP-TB患者41コホートおよび肺SN-TB患者19コホートを解析対象とした。結核特異的死亡率の中央値は、SP-TB患者で0.389/年(95%CI; 0.335-0.449)、SN-TB患者で0.025/年(0.017-0.035)であった。自己回復率の推定値は、SP-TBおよびSN-TB患者でそれぞれ0.231/年(0.177-0.288)および0.130/年(0.073-0.209)であった。これらは、結核に関連しない死亡率を0.014/年(平均余命70年)と仮定すると、SP-TBでは1.57年(1.37-1.81)、SN-TBでは5.35年(3.42-8.23)の平均未治療期間に相当する。

【結語】結核特異的死亡率は、SN-TB患者よりもSP-TB患者の方が約15倍高い。以前の結核モデリング研究ではこの差は劇的に過小評価されており、関連する予測の精度に懸念が生じる。SN-TBは感染力が低いにもかかわらずその持続期間が非常に長いため、SP-TBと同等の二次感染を引き起こしている可能性がある。


対象者の検査前確率にもよりますが、一回のPCR検査陰性で安心していけないように、一回の塗抹検査陰性で安心してはいけません。
有病率が減少していくからこそ、我々にとって結核はより重要な感染症になってくるでしょう。

by vice_versa888 | 2020-08-18 13:09 | 抗酸菌感染症 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888