人気ブログランキング | 話題のタグを見る

急性膵炎レビュー

Twitterの方から流れてきて、そういえば読んでなかったなーということで、
知識の整理のため、読んでみました。重要なところを抜粋。ところどころ意訳と補足を入れました。
Boxhoorn L, Voermans RP, Bouwense SA, Bruno MJ, Verdonk RC, Boermeester MA, et al. Acute pancreatitis. The Lancet. 2020;396(10252):726-34

【診断】
1)上腹部痛、2)血清アミラーゼand/orリパーゼの上昇(正常の3倍以上)、3)画像所見が急性膵炎と一致 のうち、2つ以上を満たすとき
 典型的な臨床所見と検査所見がある場合、診断確定目的に追加の画像診断は必要ないが、診断が不確実である場合に初期診断として画像検査を行う。 壊死性膵炎は、一般的に症状発症から72~96時間後の画像で診断される。

【病因】
 ほとんどの高所得国では胆石(45%)とアルコール(20%)が急性膵炎の最も多い原因である。(その他:薬物療法、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、高カルシウム血症、高トリグリセリド血症、感染症、遺伝、自己免疫、外傷)

【重症度予測】
 APACHE IIスコア、Ranson’s Criteria、Modified Glasgow Acute Pancreatitis Severity Score、血清検査(CRPやBUNなど)を用いたスコアリングシステムなどが提唱されている。 現在のガイドラインでは、入院時にSIRSスコアや臓器不全の有無を最低48時間モニタリングし、重症化を予測することが推奨されている。

【重症度分類】
○Revised Atlanta classification
 局所的な合併症(膵臓または膵周囲の液体貯留、脾静脈・門脈血栓、腸管虚血、胃流出路閉塞)や全身性の合併症(すなわち既往症の悪化)、臓器障害の有無で軽度、中等度、重度に分類される。
軽症:合併症なし、臓器障害なし
中等症:いずれかの合併症あり、または一過性(<48h)の臓器障害のいずれかを有する
重症:いずれかの合併症と臓器障害(>48h)を有する

○Determinant-based classification
 4つに分類される
軽症:膵臓、膵周囲の壊死所見・臓器障害なし
中等症:非感染性の膵臓・膵周囲の壊死または一過性(<48h)の臓器障害
重症:感染性の膵臓・膵周囲の壊死または持続する臓器障害(>48h)
最重症:感染性の膵臓・膵周囲の壊死および持続する臓器障害(>48h) 

 急性膵炎で最も頻繁に認められる合併症は膵臓および膵周囲の液体貯留である。 治療方針が異なるため、これらの所見は明確に区別されるべきである。 間質浮腫による液体貯留は最初の4週間に出現し、時間経過とともに改善する。一方、隔壁を伴って水分貯留が持続する場合は膵仮性嚢胞と呼ばれる。 壊死性膵炎では、発症後最初の4週間の間に発生した集塊は急性壊死性集塊と呼ばれており、様々な量の液体と壊死性の残骸が含まれている(4週以降:Walled-off necrosis,WON, Fig2)。
 急性膵炎の局所合併症としては、腹部コンパートメント症候群、腸管虚血、胃出口機能障害、脾臓・門脈血栓症、偽動脈瘤などがあり、それぞれに必要な治療が異なる(本レビューでは詳細には触れない)。 
急性膵炎レビュー_e0398744_21304634.jpg
【初期治療】
○輸液
 点滴投与の最適な速度に関するエビデンスは乏しいが、現在のガイドラインでは、心拍数が120bpm未満、平均動脈圧が65mmHg~85mmHg、尿量が0.5-1.0mL/kg/h以上に達するまで、5~10mL/kg/hの輸液投与が推奨されている。 生食よりも乳酸リンゲル液がより好ましい。

○疼痛管理
 WHOの疼痛治療ラダーに従い十分な鎮痛を行う。多施設共同レトロスペクティブ研究では、ICUに入院した急性膵炎患者における硬膜外麻酔の使用は、硬膜外麻酔を使用しなかった患者と比較して30日死亡率の減少と関連していることを示した(ルーチンに使用すべきかどうかは前向き研究が必要)。

○栄養
 最適な栄養投与は腸管バリア機能を維持し、細菌のtranslocationを抑制し、SIRSを減少させる。PYTHON試験において、24時間以内に経腸経管栄養を早期に行っても、 オンデマンド群(72h以降に経口栄養を開始)と比較して感染率(25% vs 26%)や死亡率(11% vs 7%)は低下しなかった。したがって、72時間後に患者のカロリー摂取量が不足している場合に、経腸栄養を開始する。合併症や死亡率上昇の可能性があり、TPNのルーチン使用は推奨されない。 

○胆石性(胆道性)膵炎におけるERCPの役割
 急性胆石性膵炎は、胆石または胆泥、またはその両方による一過性の胆管および膵管の閉塞の結果として発症する。現在のガイドラインでは、緊急ERCPは膵炎と胆管炎を併発している患者にのみ行うことを推奨しており、持続性胆道系疾患を有する患者では考慮される。APEC試験では、胆道括約筋切開術を伴う緊急ERCP(24時間未満)をルーチンに行っても、重度の胆道膵炎が予測される患者では、保存的治療と比較して、死亡率や重度の合併症は減少しなかった(38%対44%)と報告されている。

○感染性合併症の予防
 急性膵炎では、肺炎や菌血症などの関連感染や、膵臓または膵周囲壊死の二次感染が敗血症を引き起こし、臨床転帰に大きな影響を及ぼす可能性がある。 膵臓または膵周囲壊死の二次感染は、腸管内からtranslocationが原因であると考えられているが、抗生物質の予防的使用が二次感染のリスクを軽減するわけではない。プロバイオティクスの投与は推奨されない。 

【間質性浮腫性膵炎の合併症管理】
 一般的に、間質性浮腫性膵炎における膵・膵周囲液体貯留は、発症後数週間で自然に消失し、介入を必要とすることはまれである。膵仮性嚢胞の介入の適応は、胃流出路閉塞や腹痛などの症状の存在によって決定される。現在のガイドラインでは、介入が必要な仮性嚢胞の大きさは示されていない;しかしながら、6cm以上の仮性嚢胞はしばしば症状を引き起こす。 膵仮性嚢胞のドレナージには様々な方法があるが、仮性嚢胞が内視鏡的に到達できる場合には経管腔的内視鏡ドレナージが好まれる。 

【壊死性膵炎の合併症管理】
 感染を伴わない膵・膵周囲の壊死に対するドレナージは感染を引き起こすリスクがあり、腹痛、胃流出路閉塞、黄疸、または発症から少なくとも4~8週間後に改善が乏しい場合などにのみ考慮すべきである。
 一方、膵壊死への二次感染はほぼ常に侵襲的な介入を必要とする。二次感染は、約半数の患者で造影CT上の壊死巣内のガス産生所見によって明らかになる。 残りの半数は感染徴候で十分なことが多い。診断が不確かな場合には、経腹式穿刺吸引法で得られた壊死性物質のグラム染色や培養が必要となることがある(ただし25%で偽陰性)。
 感染性壊死性膵炎患者の治療の最初のステップは、広域スペクトラムの抗菌薬の投与である。ただ支持療法のみで管理可能な症例は少数である。現在のガイドラインでは、数週間経過観察し、WONに至ってからカテーテルドレナージを行うことが推奨されている。二次感染は発症後3週間ですでに発生しており、抗生物質の長期投与は真菌感染症や抗生物質抵抗性の増加につながる可能性がある。
 ここ10年で、感染性壊死性膵炎に対する従来の開腹手術は、ほぼ完全に低侵襲手術に取って代わった。感染性壊死性膵炎に対しては内視鏡的ステップアップ法が徐々に好ましい治療法になってきているが、すべての患者で内視鏡的ステップアップが可能なわけではないかもしれない。理想的には、感染性壊死性膵炎の患者は、両方のアプローチに十分な経験を持つ集学的チームによって議論され、治療されるべきである。 

○膵内分泌・外分泌不全
 急性膵炎発症後には、膵外分泌機能と膵内分泌機能の低下が影響している可能性がある。膵外分泌機能不全の患者は脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の欠乏症を発症するリスクがある。脂肪便を減らし、その他のビタミン欠乏などの合併症を予防するために膵酵素の補充が必要である。
 内分泌機能低下にも注意すべきである。膵炎後糖尿病は2型糖尿病患者よりも死亡率と入院リスクが高いと考えられている。膵炎後糖尿病の治療に特に焦点を当てたガイドラインはないが、生活習慣の調整を含む2型糖尿病に一般的に用いられる治療法が推奨されている。

【再発予防】
 急性膵炎患者の約20%が再発する。 胆石性膵炎の再発を防ぐために、軽症であれば同一入院中に胆嚢摘出術を行うことが強く推奨されている(PONCHO試験)。一方、壊死性胆石性膵炎患者における胆嚢摘出術の最適なタイミングに関するエビデンスは乏しい。壊死所見の改善または6週間経っても壊死所見は残存するが、残存位置を考慮して安全に手術が可能となるまで胆嚢摘出術を遅らせることが推奨されている。 括約筋切開を伴うERCPは胆道膵炎の再発リスクを減少させるが、0にはできない。こうした患者には胆嚢摘出術も勧められる。  急性膵炎の再発および慢性膵炎への進行の他の重要な危険因子は、アルコール摂取と喫煙である。初発後の禁煙は再発を予防する。
 急性膵炎の原因は、標準的な診断検査を行っても約15~25%の患者で不明なままである。腹部超音波検査を繰り返すことは最初の検査よりも感度と診断精度が高くなり、比較的安価で費用対効果が高い方法である。 特発性急性膵炎が再発した場合には、内視鏡的超音波検査でまだ確認されていない場合には、(セクレチン増強)MRCPで解剖学的異常を確認することが推奨されている。また遺伝カウンセリングも考慮すべきである(PRSS1変異など)。

【今後の研究の展望】
 急性膵炎の最適な治療法に関する多くの疑問が残っている。最も重要なことは、SIRSの初期反応を抑制し、その後の臓器不全を予防するための薬剤や戦略についての研究が必要であることである。 また、最適な輸液治療の種類と速度も解明されなければならない。 現在までのところ、感染性壊死性膵炎における侵襲的インターベンションの最適なタイミング(すなわち、早期か延期か)は明らかにされていない。さらに、壊死性膵炎患者の内視鏡的ステップアップアプローチに対するLAMSの安全性と費用対効果を明らかにすべきである。そして最後に、今後の研究では、膵炎の再発や膵管の破壊や断絶などの合併症を予防するために、最適な診断と治療のアルゴリズムを考案する必要がある。

僕ら、感染症に多少なりとも足を突っ込んで生きているものからしたら、
とにかく予防的な抗菌薬投与は厳に控えていただきたい(それは壊死性膵炎への二次感染を予防しないばかりか、多くの場合広域抗菌薬が用いられるため、二次感染を起こした時の手持ちの武器が減ってしまうことを意味する)。
二次感染治療は広域かつ長期に渡ることが多く、僕らとしてもどうにかドレナージができないか主治医と議論を深めるべきなのだろうと思いました。
コンサル受ける側としても、こうした各疾患の背景知識や治療内容のアップデートを重ねていくことは重要ですね。

by vice_versa888 | 2020-09-22 21:53 | 一般内科 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888