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カンジダ菌血症でルーチンの眼科診察は不要?

話題のアメリカ眼科学会のrecommendationです。

まずはおさらいから
【カンジダ菌血症】
  • 血液培養からカンジダ属が検出(培養陽性までに要する時間は2-3日、
    1週間以上かかることもある)
  • 原因:カテーテル関連血流感染症(CRBSI)、腸管からのtranslocation、
    他の感染巣からの播種
  • 死亡率は高いとされ(30-40%)、適切な治療(抗真菌薬、ソースコントロール)が
    行われない場合、9割を超えるとの報告もある(CID, 2012)
  • したがって適切な抗真菌薬選択とソースコントロールを早期に行うことが重要である
    (中心静脈カテーテルの抜去など)
  • 陰性化を確認できるまで少なくとも2日毎に血液培養2セット採取する
  • 菌陰性化+感染臓器所見の改善から2週間の抗真菌薬治療が必要である
  • 3回連続(つまり抗真菌薬投与後も)真菌が検出される場合には、
    初期治療が無効と判断(菌・感受性確認)、
    または感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎を疑った精査が必要
  • 眼内炎を合併した場合、治療選択にも影響を及ぼすため眼科診察が必須である
    本邦で行われた多施設研究では20.1%に眼内炎の合併がみられた
    (Infection, 2018  ここがポイント1)
抗真菌薬選択については、また後ほど

【ルーチンでのスクリーニング検査への反論】
①眼科スクリーニングが視力低下を予防しうるかについて、その根拠となるエビデンスは質が低く、眼内炎の定義が定まる前の古いものである
②システマティックレビューでは硝子体浸潤を伴う眼内炎の発症は1%未満と報告された
(JAMA Ophthalmol. 2019)

③前述の本邦のretrospective研究のweakpoint
1)スクリーニングを受けたのは75人中71.7%のみ
2)スクリーニングを受けた患者も硝子体生検による確認はされておらず、
3)陽性例は「眼カンジダ症の可能性あり」とされたのみ
4)硝子体手術は行われなかった、5)眼内療法を受けたのは2人のみ、
6)陽性培養はすべて血液から得られたものであった
⇨要するに過剰診断なのではないかということか

④そもそも『眼底所見』があったとしても、それがカンジダ血症に由来する変化かどうかは確証がない
(そしてこのスクリーニング結果に基づく介入はむしろ有害になる可能性もある)

⑤眼内炎の有無に基づく薬剤選択が本当に必要か(ここがポイント2)
ここで薬剤選択についてざっくりおさらい
第一選択:ミカファンギン(MCFG)100mg/日、
またはカスポファンギン(CPFG) 70mg/日⇨50mg/日
感受性があれば、フルコナゾール(FLCZ)へとde-escalation
C. kruseiの場合:ボリコナゾール(VRCZ)
C. glabrataの場合:アゾール系に感受性があれば、FLCZ or VRCZ
中枢神経感染、眼内炎、心内膜炎:アムホテリシンBリボソーム製剤(L-AMB)±フルシトシン(5-FC)
耐性懸念される場合:L-AMB

上記のように、眼内炎合併例では硝子体への移行の悪さからL-AMB(±5-FC)が経験的に用いられています。
ただ、本文中にもある通り
・VRCZは実験的には硝子体への移行が良い(あえて眼底みてL-AMBに変更する意味はあるか?)
・エキノキャンディン系を選択しても、眼所見に差はない(血流の豊富な脈絡膜までは届く。そして炎症状態ではさらに薬物濃度が高まりやすいのではないか?)
ということもあり、あえて目をみて(硝子体治療が必要なのでなければ)治療を変更する必要はあるのか、という問いが投げかけられています。

ルーチンでスクリーニングが本当に必要かどうか、介入研究で確認しないといけない(ただ、Reviewの通りなら眼内炎発症頻度が低いので十分な検出力を得るにはかなり練られたデザインでないと厳しい)でしょう。


さて、ここからはただの持論です。若輩者の極言なので異論あってしかるべき。
◯眼科スクリーニングが必要か
現時点では眼科スクリーニングが必要と考えます。確かにovertriageになる可能性がありますが、逆に所見があっても訴えられない・症状がないケースも経験しており、リスクマネジメント上(少なくとも現状では)ルーチン化しておいてよいと思います。感染症屋としてすべての臓器を隈なくみておきたいというのもありますが。
一番いいのは、我々(内科医/集中治療医)が皆きちんと眼底鏡を使えることだと思いますが、どの施設でもというわけにはいかないでしょう。
ただし治療について下記の通りと考えており、眼科常勤医がいない施設では、無症候・所見(=おそらく硝子体には達していない)であるならばコンサルトを急ぐ必要はなく、単純に全身状態と菌の特性に基づいて治療を組み立てて良いのではと思います。
(ちなみに内因性眼内炎最多は黄色ブドウ球菌です。眼内炎の進展が早くて、見つけた時には失明・失明間近であったこともあります。
グラム陽性球菌菌血症の場合、感染性心内膜炎以外に目をきちんと評価する癖をつけましょうね;自戒を込めて)

◯薬剤選択について
ただ、眼底所見があるからといって前例L-AMBがベターなのかは今後見直していくべきなのかもしれません。硝子体への介入(薬剤注射、手術)が必要なケースはやはりL-AMB+5-FCと思いますが、硝子体に感染が波及しておらず侵襲的な処置が不要な場合、それまでのエキノキャンディン系での治療が奏功しているならそのまま継続するのもありではないかと思います。もちろん培養結果からアゾール系が選択可能ならそちらに変更すべきでしょうし、眼底所見の悪化があれば治療変更やむなしと考えます。
というのも、(だいぶマネジメントできるようになったとはいえ)L-AMB+5-FCの合併症対策は面倒ですし、継続不能になることもしばしば経験します。比較してキャンディン系は非常に楽です。本文の結語の通り、全身状態と菌の情報から治療マネジメントを考える方が良いのかもしれません。


(主旨とはずれますが、臓器移行性の議論は根拠なるevidenceがlowまたは古いものが多く、いつもpoorな議論だなぁと思っています。局所の薬物濃度を測定する技術も進歩していますので、炎症状態における抗生物質のPK/PDについてもう少し強いevidenceが創出されたらと妄想しています。)

ルーチンを再考することは大事です。まだcontroversialなところだと思いますが、今後も議論していきましょう。


日本語の参考書

by vice_versa888 | 2021-07-26 10:47 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888