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肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症) watchful waitingは妥当か

2020年改訂されたATS/ERS/ESCMID/IDSAの合同ガイドラインでは
肺NTM診断基準*を満たす患者は、特に塗抹陽性や空洞病変を要する場合には治療を開始することを推奨」となっています。
*「臨床徴候/画像所見(空洞または結節・気管支拡張)」+「微生物学的所見(2つ以上の喀痰検査で陽性/気管支洗浄で陽性/生検+培養陽性)」

 この疾患の問題点は複数ありますが、特に誰にいつから治療を開始するかは今も大きな課題の一つです。
 全例が(急速)進行性であるわけはない一方で、治療は多剤併用療法を長期に行うことが基本であり、副作用や忍容性の問題があるからです。このため診断確定後に進行のスピードなどを確認してから治療の是非を考える“Watchful waiting”を行うこともしばしばです。この研究はこのwatchful waitingの妥当性を検証することを目的としています。

Im Y, Hwang NY, Kim K, Kim H, Kwon OJ, Jhun BW. Impact of time between diagnosis and treatment for nontuberculous mycobacterial pulmonary disease on culture conversion and all-cause mortality. Chest. 2021.

【目的】
1)診断から抗生物質投与開始までの時間は、培養転換、全死亡に影響するか
2)培養転換と全死亡の減少に関連はあるか を検証すること

【方法】
 以前の研究のコホートデータを使用(Samsung Medical Center、1997-2013)。データ欠損例などを除き、6ヶ月以上抗菌薬治療が行われた肺NTM症712例が対象となった。全例診断基準を満たしており、初回培養陽性となった日を診断日とした。
 多変量解析を用いて、治療開始までの待機時間および6ヶ月後の培養転換が死亡に影響するかを検証した。サブグループ解析として12ヶ月以上の治療が行われた場合も検証した。
 培養転換は3回連続した培養陰性と定義し、最初の陰性が確認された培養が行われた日までを転換までの期間とした。
 重症度はBACESスコア*で軽症(0-1)、中等症(2-3)、重症(4-5)と定義した。
*筆者らが検証・発表した肺NTM症の重症度スコアリングシステム(AJRCCM, 2021)。
BMI(<18.5kg/m2)、Age(≧65歳)、Cavity(空洞影の存在)、ESR上昇、Sex(男性)のそれぞれを1pointとして合計する。

【結果】
 Characteristics:このコホートで特徴的な点だけ触れる。年齢中央値は58歳で比較的若めだが、男性が多く(65%)、結核既往も多い(46%)。
“ Watchful waiting”の期間は4.8ヶ月(IQR 1.3-20.8)で、治療開始後67%の患者が6ヶ月以内に培養転換を達成した(観察期間中に達成したのは82%)。
全患者の培養転換までの期間の中央値は2.3ヶ月(IQR  0.9-12.6)で135例(19%)の患者が死亡していた。BACES重症度分類では軽症が38%、中等症が48%、重症が14%で、軽症例で結節・気管支拡張型、重症例で線維空洞型(年齢・喫煙率も高い)が多かった。“Watchful waiting”の期間は軽症群の方が長く、培養転換までの期間も短かった。
 BACESの重症度を調整した一変量モデルおよび多変量モデルでは、“Watchful waiting”の期間と6カ月間の培養変換および死亡との関連は確認されなかった。一方で6ヶ月後培養転換は死亡と有意な負の相関を示した(粗ハザード比0.46、95%CI 0.33-0.65、調整HR 0.51、95%CI 0.35-0.74)。
 12ヶ月以上の治療を受けたサブグループでも“Watchful waiting”の期間と死亡との間に関連は確認されず、同様に12ヶ月間の培養転換は死亡と負の相関を認めた(調整HR 0.51、95%CI 0.33-0.78)。

【結語】
 “Watchful waiting”戦略に従って抗菌薬治療を開始することは妥当かもしれないが、生存する利益を考えると治療を必要とする患者にとって培養転換を達成することは重要な目標である。


 実臨床ではしばしば行われている“Watchful waiting”戦略の妥当性を検証した研究ですが、このclinical practiceを支持する結果が得られました。本研究の対象患者はすべて確定診断されている患者であり、それなりの菌量が存在する集団だろうと思います。少なくとも数ヶ月、画像や症状の悪化が見られないか確認してからの抗菌薬スタートでも予後に大きく影響しないと考えて良さそうです。
 ただ我々が診ている肺NTM症の集団より若く、重症化リスクが比較的高い集団を診ている可能性が高いことには注意が必要です(ただむしろ高齢で空洞がない、症状がないなどの状態ならやはり安心して経過をみることができそうですね)。
 本文中でも述べられておりますが、BACES重症群は背景肺も荒廃しており塗抹で菌が得られる割合が多く、私なら診断即治療していそうです。

 また培養陰性化することと予後に関連があることが改めて示されました。なかなかNTMの治療が予後を改善するかというデータが乏しいのですが、培養陰性化は代理指標としてはある程度的確なものであると言えそうです。診断が得られていて治療が必要そうな患者については積極的に治療を考えるべきでしょう。
 「肺非結核性抗酸菌症疑い」や「肺異常陰影」で紹介されてくる患者さんは増え続けています。大半が“Watchful waiting”の戦略をとることになるのですが、過去に亡くなった患者さんや何年も標準治療が行われなかったこともあってか肺が荒廃している患者さんをみると、やはり我々がきちんと診断をして治療が必要な患者さんを見出すことがとても重要なのだと思います。どんどん紹介してください。
 肺NTM症が頭をよぎったら抗GPL-core IgA抗体(抗MAC抗体、外注検査)を測定してください(もちろん喀痰検査も)。残念ながらMAC(M. avium complex)しか判断はできませんが、この抗体が異常高値の場合、治療が必要になるかもしれません。その他、保険診療上許せばですが、KL-6も参考になるかもしれません(Respirology, 2021)。
 これらのパラメータとBMI、全身炎症の有無と程度、症状、画像所見(病変の広がり、特に空洞)、抗酸菌塗抹所見をみて
1)空洞and/or塗抹陽性例:基本的に禁忌や懸念がなければ早期に標準治療開始
2)上記はないが、るいそうや炎症所見など予後不良因子複数:なるべく早めに治療(アスペルギルスの関与がないか確認することも)
3)臨床的予後不良因子が少ない:画像経過観察(胸部レントゲン)で。治療介入することは少ない。ただMAC抗体が非常に高いケースや基礎疾患次第ではいつか治療介入するかもと伝えてwatch 
という感じが多いでしょうか。

◯確定診断された肺NTM症に対して、watchful waiting戦略で治療開始を検討することは妥当である。
◯培養陰性化は予後の指標となる
◯確かに大半の患者は軽症だが、一部の患者は進行性で予後不良である(NTMが頭をよぎったら一度は相談してもらえると嬉しいです)。

 最後に改めて、
気管支拡張症に安易にクラリスロマイシンを処方しないこと!
(CAM耐性が誘導され、標準治療が行えなくなるリスクがあります。またDPBでもNTM感染はしばしばありますので、是非培養検査で確認を。マクロライド療法に関しては以前の記事でも触れました)

by vice_versa888 | 2022-03-01 16:48 | 抗酸菌感染症 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888