前回新規アゾール系抗真菌薬の話をしました。より広域スペクトラムに、より安全になってきているようですが、今だに中枢神経感染症や重症病態ではアムホテリシンBが活躍する場面があります。
JACにちょうどレビューがありましたので、これらを参考にまとめてみます。
過去
現在
未来
【過去】
1)アムホテリシンB(AMB)の作用機序
AMBは1953年に「フレミングの逆襲」ともいうべき方法(ペニシリンがカビ⇨抗菌薬であったことの逆)で、Streptomyces nodosus という細菌が広域抗真菌化合物を生産することがわかり、発見された。
AMBは真菌細胞膜のエルゴステロールに親和性が高く、これに結合することで細胞膜の透過性を高め、細胞質成分を漏出させることで抗真菌作用を示す。アゾール系抗真菌薬の作用機序がエルゴステロールの合成阻害であることと比較すれば、その殺菌効果はより急速で広範なスペクトラムを有することが容易に想像できる。またリーシュマニア原虫のもつエピステロールに対しても親和性が高く、リーシュマニア症の治療にも用いられる。
しかしながらヒトを含む動物が細胞膜の構成要素としてもつコレステロールに対しても親和性は低いものの結合するため、高用量では腎毒性や心毒性といった形で細胞障害の影響が出現しうることが問題であった。
2)リポソーム化製剤(L-AMB)の登場
こうした細胞障害の問題やドラッグデリバリーの観点(腎・肝臓といった組織でのクリアランスを低下させ、少量でより標的組織内の濃度を高める)から、AMBに対してもリポソーム(リン脂質二重膜)化が適用され、結果として毒性を軽減させ、標的組織濃度を高めることに成功した。
(リポソームはコレステロールを含む細胞膜に薬物を移行させる傾向が比較的低い一方、真菌細胞壁を透過して細胞膜へ結合でき、AMBは細胞膜で作用する)
3)PK/PD
投与後もそのほとんどがリポソームに結合したまま存在しており、AMBと比較して毛細血管からの漏出や臓器への移行は制限されるが、感染臓器への移行は担保される。最大耐用量は10mg/kgとされたが、10mg/kgでは腎障害の発生率が高いが3mg/kgと比較して臨床的恩恵はなく、最終的に3mg/kg(小児も同様)に決定された。
腎機能障害、肝機能障害患者を対象とした薬物動態に関するデータは限られている。濃度、累積曝露量と腎機能障害などの有害事象の発生との関係を明らかにした臨床試験も行われていない。
4)微生物学
L-AMBは播種性カンジダ、アスペルギルス、ムーコル、真菌性mycetoma、クリプトコックス脳髄膜炎、内臓リーシュマニア症に適応がある。耐性は非常に限られている。CLSIからはカンジダに対するepidemiological cut off value(ECV)が、EUCASTからカンジダ、アスペルギルスを対象としたBrakpoint、ECVが提案されている。その他の真菌についてはカットオフが明らかでない(dataの下支えが不足しているが、一般にMIC>2mg/Lを耐性としている)。
【現在】
5)臨床応用
アゾール系抗真菌薬は唯一経口・非経口薬剤があり、外来投与含めた真菌症の治療選択肢として画期的であったが、近年耐性が問題となっている。それだけではなく、併存症、背景となる疾患の治療薬との相互作用や、投与量設計、治療継続が不能となる毒性などが問題となっている。
AMB(L-AMB)は非経口薬しか存在しないものの、幅広いスペクトラムを有し、問題となるような薬物相互作用がほとんどない。耐性化の懸念もすくない。このような特徴のため、以下のような疾患についてエビデンスを有している。
①侵襲性アスペルギルス症(IA)
AMBは当初IAに対する唯一の治療薬であったが、現在はアゾール系抗真菌薬(特にVRCZ)が第一選択となっている。
L-AMBは代替薬の位置づけ(AMBはその毒性ゆえ推奨されていない)
抗真菌薬の併用療法についてはエビデンスが乏しいが、アゾール耐性アスペルギルスに対する治療オプションとして残されている。
ある観察研究ではVRCZ+L-AMB、CPFG+LAMB、VRCZ+CPFGのレジメン間の有効性に差はなかった(Mycoses 2014; 57: 342–50.)
②ムーコル症
第一選択はL-AMBとされているが、症例数が少ないため無作為化RCTでの検証は行われていない(5mg/kg)。
posaconazole、isavuconazoleの有効性、安全性が(少数の検討であるが)証明されている。
③血液悪性腫瘍の患者における経験的・先制攻撃的治療
いずれもL-AMBが標準治療として認められた。経験的治療と先制攻撃的治療では生存率に差なし(ただし先制攻撃的治療ではL-AMBの使用頻度が多い)。
経験的治療としてCPFGはL-AMBとの比較で非劣性が証明されている。
④ICUでの使用
免疫不全を有さない重症患者においてもしばしば真菌症が認められる。
稀ではあるが、糖尿病患者や菌に汚染された開放創を有している場合、真菌性副鼻腔炎、肺や皮膚の壊死性感染を特徴とするムーコル症のリスクとなる。潜在的素因の管理、外科的介入、そしてL-AMBの投与が治療である。
カンジダ血症、侵襲性カンジダ症の第一選択薬はキャンディンであり、またしばしばアゾールが使用されていることからその疫学的変化(C.auris をはじめとした耐性菌出現)には注意が必要である。
腹腔内カンジダ症は、穿孔、吻合部リーク、開腹手術の繰り返し、壊死性膵炎、腹部臓器移植などに起因することがある。これらの患者やアゾール系の曝露歴がある患者ではキャンディンやL-AMBの使用を考慮しなくてはならない。カテーテル関連血流感染症の場合カテーテルの抜去が必須であるが、これが困難な場合バイオフィルムへの浸透を考慮し、キャンディンやL-AMBが推奨される。
アスペルギルスは、人工呼吸を受けている好中球のない非免疫不全の重症患者の最大2%の下気道で検出される。人工呼吸器関連肺炎でアスペルギルスが原因となることは稀だが、侵襲性肺アスペルギルス症を引き起こすことがある。治療はVRCZが第一選択で、L-AMBは代替薬ないしはVRCZ MIC≧2mg/Lの場合に考慮される。
※侵襲性カンジダ症(血流感染症)でL-AMBが適応になる場合
・重症(=敗血症性ショック)
・播種性(特に、中枢神経および眼病変;真菌性眼内炎ではフルシトシンを併用)
・バイオフィルム感染症
・耐性(たとえばC. guilliermondii )
⑤小児
L-AMBは成人と同じ投与量推奨値で小児に処方でき、10mg/kg/日までの投与で用量制限となる毒性は認められていない。
小児においてはむしろ他の抗真菌薬の使用経験が乏しいこともあり(特にアゾール)、L-AMBは1ヶ月から18歳までの小児患者において忍容性が高く,小児におけるこの抗真菌剤の包括的な臨床経験が存在する。小児に比較的頻繁に使用されているのは、その幅広い活性スペクトルと、小児に使用許可されている抗真菌剤が少ないため、代替薬の数が限られていることが関係している。
経験的治療としてはキャンディン(CPFG)とL-AMB(特に中枢神経では)が推奨されている。
【未来】
6)個別化された標的治療、免疫治療とIFIリスク、そして抗真菌薬との相互作用
・各キナーゼ阻害薬:想定されていなかった真菌症リスク、相互作用
ex)ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤であるイブルチニブ:本来真菌感染症のリスクがそう高くないCLLにおいても、P.jirovecii肺炎やクリプトコックス髄膜脳炎、IPAの増加が指摘されている。また治療開始から2〜3年経過して発症することもある。
また多くはCYP3A4/A5を介して代謝されるため、薬物濃度に影響を及ぼす可能性がある。実際臨床試験ではアゾール系薬剤を投与されている患者は除外されている。
・CARTそのものは真菌症発症リスクとは関連しないようである。
7)インフルエンザ、そしてCOVID-19
インフルエンザ、COVID-19、特にICUに入室するような症例では侵襲性肺アスペルギルス症のリスクがある。特にCOVID-19では治療としてステロイド、抗IL-6抗体が使用され、真菌症発症リスクを高めている(いわゆるCAPA;COVID-19 associated pulmonary aspergillosis)。
治療はやはりアゾールが選択されるものの上記病態は非常に急速進行性であるため、特にサーベイランスデータとしてアゾール耐性が多い地域などでは、併用療法(アゾール+キャンディンまたはL-AMB)が推奨される。また他の真菌症としてムーコル症の発症との関連も指摘されており、疑われる場合にはL-AMBを使用することになる。
8)アゾール耐性の増加
一般にCandidaの耐性選択はアゾール系薬剤の投与中に宿主内で起こるが,A. fumigatus については宿主内および環境中の耐性選択が報告されている。
アゾール投与歴のある侵襲性カンジダ症ではアゾール耐性に留意する必要がある。
A. fumigatus も長期投与中の耐性出現に注意が必要である。イトラコナゾールで治療された慢性肺アスペルギルス症患者の11%、ボリコナゾールで治療された患者の5%にイトラコナゾール耐性が観察された。また一部のアゾール系殺菌剤(農薬)と医療用アゾールは分子構造が似ているため,交差耐性化が起こることが指摘されている。アゾール系薬剤による治療歴のない患者でも、アゾール系薬剤耐性アスペルギルスの吸入により、アゾール系薬剤耐性アスペルギルス症が発症することがある。一方で、数十年に渡り使用されているにもかかわらず、AMBに対する後天性耐性はほとんど報告されていない。
アゾール耐性アスペルギルスのサーベイランスデータは不足している。こうしたデータは施設や地域ごとの経験的抗真菌薬治療を考える上で重要である。
また耐性マーカーや耐性変異を検出して耐性表現型を(仮に菌体の証明ができなくても)同定する個別化治療の開発も必要である。現在のPCRで耐性遺伝子を検出する方法では検出できる遺伝子数と感度に限界がある。しかしながら不適切な抗真菌薬選択は死亡率の上昇と関連するため、短時間で検出することが求められる。今後は宿主、菌、薬剤に関連する要因を考慮した個別化された戦略へと移行することが要求されている。
またC. aurisの世界的広がり、アゾール耐性のC. parapsilosis (そもそもキャンディンも耐性)、C. glabrata のエキノキャンディン耐性など、これまでの治療ガイドラインを変更する必要があるような耐性真菌の出現も脅威的である。
まとめ
○L-AMBは腎機能障害などマネジメントを必要とする副作用がある薬剤ではあるが、広いスペクトラム、確実な効果等蓄積されたエビデンスが豊富である。
○アスペルギルスやカンジダに対しては通常代替薬として位置付けられているが、「後がない」場面では強力な選択肢である。
○非常に多くの新薬が登場し、各疾患におけるキードラッグとなっているが、特にアゾールはこうした薬剤との相互作用がしばしば問題となる。
○また耐性真菌の出現と拡散が世界的な脅威である。
○(L-)AMBは歴史のある抗真菌薬であるが、こうした状況の変化を考慮するとまだまだ活躍する場が多く残されている薬剤である。
最後にL-AMBの使用に関する注意点をまとめておわります。
・投与量:基本は3mg/kg 2時間かけて投与 最大5mg/kg ※クリプトコックス脳髄膜炎では6mg/kgまでOK。ムーコルの場合もできれば高用量で。
中枢神経系(特にクリプトコックスなど)など組織内濃度が上がりにくい場所では、5mg/kg程度まで
・肝機能や腎機能による用量調節は不要(透析症例も同様)
・主な副作用:投与関連反応(発熱、嘔気・嘔吐など)、腎機能障害、低K血症、低Mg血症など
・投与関連反応の予防:病態にもよるが、初回は3時間ほどかけて投与することを考慮
症状が出現した場合は抗ヒスタミン薬や解熱鎮痛薬(通常アセトアミノフェン)を投与し、2回目以降の前投薬を
・腎機能障害の予防:体液バランスの適正化(元々腎前性の要素があれば十分に輸液しておく)、他の腎機能障害リスクのある薬剤の整理
※腎障害が生じた場合にはきちんと原因を考察する すべて薬剤性とは限らない
・低カリウム血症の予防:原則維持輸液が必要ならKを添加しておく。週2-3回程度、K(Mg)のフォローを行う
※特に元々QT延長がある、低K,Mg血症がある場合には不整脈を助長する可能性があるため注意
・注射用水で溶解し、5%ブドウ糖溶液で希釈(250mlなど)
・原則単独ルートから投与する どうしても単独ルートが確保できない場合は前後ブドウ糖液でフラッシュ
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