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感染性心内膜炎(IE)に関するちょっとニッチな話題

今までも色々取り上げてきました。医師国家試験でも沢山関連問題が出ていますし、患者層や治療法の変化の影響を受けて疾患構造が大きく変化してきたことを含めて、より重要な疾患であると考えています。

今回は個人的に気になった論文を3つ簡単に紹介します。

1)免疫学的現象はIE診断にどの程度寄与する?

【背景】
免疫学的現象とはIEにしばしば認められる所見で、糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマチ因子を指す。
免疫学的現象があると小基準を1つ満たすことになり、modified Duke criteriaで「確定診断」となることが多い。ただ、所見の感度は比較的低いと考えられており、画像モダリティ(エコー、心臓CT、SPECT、PET-CT)の進歩や患者層の変化により、これらの所見が診断に寄与する可能性が低下していないか(ルーチンで追加検査が必要なのか?)という仮説が本研究の問いである。

【方法】
デザイン:レジストリ研究(前向きに集積された情報をretrospectiveに解析)、単施設(Amsterdam UMC, AMC)
対象:AMCの心内膜炎チームで検討されたすべてのIE疑い成人患者(2016年10月~2021年3月、連続データ)
調査した免疫学的異常は1)IgM-RF、2)血尿、3)Roth斑の3つ(IEと診断するために追加検査が必要かどうかを議論するため、観察すればみつけられるOsler結節をあえて入れていないことがこの論文を解釈する上で重要なところ)
これらの検査をルーチンで行うことがこの施設では推奨されている(全例で遵守されているわけではない)。また上記の通り、modified Duke criteriaに免疫学的現象が入っているので、組み入れバイアスがかかる可能性がある。これについては病理で確定診断されているIEや免疫学的現象を除いても確定診断された症例について感度分析を行っている。

【結果】
対象285人のうち、138人(48%)がIE確定例、115人(40%)がpossible IEに分類され、32人(11%)はIEが否定された。自己弁心内膜炎は72人、人工弁心内膜炎は51人、植込み型デバイス関連は15人だった。
222名の患者(78%)において、少なくとも1つの免疫学的検査が実施された。
・IgM-RF上昇:22/126(17%)   感度19.4 (10.8–30.9) 特異度71.6 (61.4–80.4)
・血尿:78/196(40%)      感度50.5 (40.4–60.6) 特異度84.7 (73.0–92.8)
・Roth斑:6/120(5%)      感度8.1 (2.7–17.8)   特異度98.3 (90.8–99.9)
⇨感度分析:大きく傾向は変わらず。

【結語】
臨床的に心内膜炎が疑われる患者において免疫学的現象を確認することは、より多くの患者を確定的なIEと分類するのに役立つ。

血尿=糸球体腎炎として良いかは議論のあるところでしょう。またルーチンの眼科診察を依頼すべきかどうかについても、眼内炎、Roth斑の合併率が低いことから悩ましいところです(望ましいのはその通りですけど)。少なくとも現時点では免疫学的現象を確認することは診断上重要と言えます。どこまで検査するか、どのように解釈するかは悩ましい点があり、疑わしい症例では経験のある感染症医が介入し、全体をconductingすべきですね。

2)TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation、経カテーテル大動脈弁植え込み術)後のIE
心エコー所見の有無で臨床転機に差があるか
Mangner N, Panagides V, Del Val D, Abdel-Wahab M, Crusius L, Durand E, et al. Incidence, Clinical Characteristics, and Impact of Absent Echocardiographic Signs in Patients with Infective Endocarditis after Transcatheter Aortic Valve Implantation. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America. 2022.


【背景】

TAVI後のIEは0.7-3.4%/患者・年に発生し、予後不良と考えられている。一方で心エコー検査が陰性となってしまう(vegitationの特定が困難)こともしばしばある。SPECTやPET-CTの有用性を示す症例報告はあるが、大規模調査は行われていない。こうした検査を積極的に行うべきか否かを検証課題としている。


【目的】TAVI後のIEにおいて、エコー所見の有無と臨床転機に関連があるか


【対象】国際多施設レジストリ研究(Infectious Endocarditis after TAVI International Registry)

P:IE確定例(modifid Duke criteria)

E:心エコー所見陽性(IE-pos;vegitation、膿瘍、偽性動脈瘤、心内瘻、弁膜穿孔・瘤)

C:心エコー所見陰性(IE-neg)

O:1年後死亡率(全死亡)  副次評価項目として院内死亡、2年後死亡、IE治療中の合併症


【結果】

TAVI-IE患者578例中、IE-posは15.1%だった。

IE-neg群は背景として外科的ベースラインリスクが高く、僧帽弁閉鎖不全が少なく、自己拡張型デバイスを用いた経大腿アクセスが多く、TAVI周術期合併症が多く、入院期間が長い傾向があった。

IE-posは超早期のIE発症(<1ヶ月)が多かった。

IE-negでは外科的治療の割合が有意に低かった。IE治療中の合併症は両群で差はなく、院内死亡率にも有意な差はなかった。

1年後の死亡率はIE-pos 48.2%(43.7-53.0)、IE-neg 54.2%(43.8-65.4)で有意差なし。

(ただし、生存曲線はIE-negが明らかに下をいく。Cox回帰分析で1年死亡率(HR 1.10, 95%-CI 0.67-1.80)とは有意な関連とはいえない)


【結語】

心エコー検査が陰性でも、血液培養が陽性で感染症状を呈するTAVI施行患者は、IEが合理的に疑われる高リスクの患者群であり、早期の治療開始が必要である。


以下の点に注目しました

①エコー所見が得られたケースはやはり少ない(IE-negは診断そのものが遅れている可能性)

②pos/negに関わらず、TAVI後のIEの予後は不良である(1年後半数しか生存していない!)

③培養陰性例はほとんどいない:エコー所見が得られないので、確定診断に至らず除外されている可能性)

TAVI後のIEをいかに早期発見するか、特に追加画像検査(SPECT/PET-CTなど)を行うべきか、まだまだ課題が多そうです。TAVI後のfocus不明の発熱/炎症反応では、鑑別診断リストから最後まで除外しないことが重要ではないでしょうか。次の論文も参考になりそうです。


3)人工弁心内膜炎の新たな展望-FISHseq診断

Hajduczenia MM, Klefisch FR, Hopf AGM, Grubitzsch H, Stegemann MS, Pfäfflin F, et al. New perspectives for prosthetic valve endocarditis - impact of molecular imaging by FISH seq diagnostics. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America. 2022.

【背景】 人工弁IEの診断の難しさは上記でも述べたが、原因微生物の同定もまた困難なことがある。血液培養陰性の人工弁IE症例の割合は、全人工弁IE症例の3%〜最大50%と報告されている。IEと診断して人工弁を培養検査に提出したとしても培養陽性率は決して高くない。近年、分子技術、特に蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)やPCRベースの技術が、IE診断、特に培養陰性例において重要性を増してきている。


【デザイン】単施設・retrospective

【対象と方法】

ベルリン大学心臓外科で2003年から2013年に治療された人工弁IEが疑われる連続105例の人工弁113個について、微生物学的診断結果をレトロスペクティブに評価した。ほとんどの症例(n=111)では従来通り培養検査を実施(菌名確定は質量分析で)した。全例に対してFISHseqを追加で行った(2例はFISHseqのみ)。16SrRNAプローブとナンセンスプローブでスクリーニングし、DAPIでリポソームがないあるいは少ない微生物も可視化した。微生物が検出された場合にはFISH プローブのパネルを適用して、属または種特異的なレベルで同定した(FISHはリボソームをターゲットとする。FISH陽性微生物は活性型、FISH 陰性微生物はFISH 信号を発するのに十分なリボソームがないため不活性型と分類した)。


【結果】

血液培養陽性(2セット陽性):37/83例(44.6%) 連鎖球菌、ブドウ球菌(S.aureus、CNS)、腸球菌、カンジダが1例 。残る76例は術前血液培養がないか、判別困難(1set陽性を含む)、陰性だったということ。

弁培養陽性:23/111例(28.8%) 連鎖球菌は1例のみと減少し、相対的にCNSやその他の菌が増加 。残る79例は弁の培養が陰性か、複数菌検出のため断定が困難であった。 FISHseqにより113例中87例(77.0%)で細菌が検出され、51例(45.1%)で原因菌が同定された。113例中26例(23.0%)では、顕微鏡でもPCRでも病原体が検出されなかった。リボソーム含量が高いことを示すFISH陽性例はpossible IEよりIE確定で有意に多かった。

弁培養とFISHseq:双方で同じ病原体:17例 、FISHseqのみ陽性:27例(連鎖球菌の他、GNRやGPRが含まれる(T. whippleiを1例含む)) 、結果が異なる:6例 、培養のみ陽性:12例(CNS 5例、Sphingomonas paucimobilis1例、Micrococcus luteus1例を含む)


従来法(血液培養+弁培養)では45/113例で病原体の同定ができていたが、FISHseqの追加により67例で同定が可能だった。また得られた培養結果にFISHseqの結果を組み合わせて15/19例で原因病原体を確定できた。


【結語】

FISHseq は従来の培養法を補完し、人工弁IE診断を改善する。種の同定に加えて、FISHは重症度や病原体の状態(バイオフィルム形成の段階、活性、弁上および内部の局在など)についての情報を提供する。分子イメージング技術として、FISHseq は、皮膚細菌が汚染物質であるか感染性物質であるかを明確に識別することを可能にする。


組織培養検査はどうしても培養陽性率が低いことやコンタミネーションの問題がついてまわります。遺伝子検査は網羅的な検査であり、情報を補完しますが、高感度であるがゆえに診断がより困難になることがあります(コンタミか、真の起炎菌か)。FISHは局在を確認することでより真なる起炎菌か、あるいは弁との位置関係、リポソーム含量から感染がよりactiveなのか、バイオフィルム形成をしているのかなどの追加情報を与えてくれます。ただその分手間であることは間違いなく、他の分子生物学的手法に比べて特段優れているとは断言できません。研究のための研究にならないように、早くこうした検査の人的・コスト的問題を解決し日常臨床に近づけたいと考えています。


by vice_versa888 | 2023-02-28 14:59 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888