感染性心内膜炎(IE)に関するちょっとニッチな話題
2023年 02月 28日
心エコー所見の有無で臨床転機に差があるか
【背景】
TAVI後のIEは0.7-3.4%/患者・年に発生し、予後不良と考えられている。一方で心エコー検査が陰性となってしまう(vegitationの特定が困難)こともしばしばある。SPECTやPET-CTの有用性を示す症例報告はあるが、大規模調査は行われていない。こうした検査を積極的に行うべきか否かを検証課題としている。
【目的】TAVI後のIEにおいて、エコー所見の有無と臨床転機に関連があるか
【対象】国際多施設レジストリ研究(Infectious Endocarditis after TAVI International Registry)
P:IE確定例(modifid Duke criteria)
E:心エコー所見陽性(IE-pos;vegitation、膿瘍、偽性動脈瘤、心内瘻、弁膜穿孔・瘤)
C:心エコー所見陰性(IE-neg)
O:1年後死亡率(全死亡) 副次評価項目として院内死亡、2年後死亡、IE治療中の合併症
【結果】
TAVI-IE患者578例中、IE-posは15.1%だった。
IE-neg群は背景として外科的ベースラインリスクが高く、僧帽弁閉鎖不全が少なく、自己拡張型デバイスを用いた経大腿アクセスが多く、TAVI周術期合併症が多く、入院期間が長い傾向があった。
IE-posは超早期のIE発症(<1ヶ月)が多かった。
IE-negでは外科的治療の割合が有意に低かった。IE治療中の合併症は両群で差はなく、院内死亡率にも有意な差はなかった。
1年後の死亡率はIE-pos 48.2%(43.7-53.0)、IE-neg 54.2%(43.8-65.4)で有意差なし。
(ただし、生存曲線はIE-negが明らかに下をいく。Cox回帰分析で1年死亡率(HR 1.10, 95%-CI 0.67-1.80)とは有意な関連とはいえない)
【結語】
心エコー検査が陰性でも、血液培養が陽性で感染症状を呈するTAVI施行患者は、IEが合理的に疑われる高リスクの患者群であり、早期の治療開始が必要である。
以下の点に注目しました
①エコー所見が得られたケースはやはり少ない(IE-negは診断そのものが遅れている可能性)
②pos/negに関わらず、TAVI後のIEの予後は不良である(1年後半数しか生存していない!)
③培養陰性例はほとんどいない:エコー所見が得られないので、確定診断に至らず除外されている可能性)
TAVI後のIEをいかに早期発見するか、特に追加画像検査(SPECT/PET-CTなど)を行うべきか、まだまだ課題が多そうです。TAVI後のfocus不明の発熱/炎症反応では、鑑別診断リストから最後まで除外しないことが重要ではないでしょうか。次の論文も参考になりそうです。
【背景】 人工弁IEの診断の難しさは上記でも述べたが、原因微生物の同定もまた困難なことがある。血液培養陰性の人工弁IE症例の割合は、全人工弁IE症例の3%〜最大50%と報告されている。IEと診断して人工弁を培養検査に提出したとしても培養陽性率は決して高くない。近年、分子技術、特に蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)やPCRベースの技術が、IE診断、特に培養陰性例において重要性を増してきている。
【デザイン】単施設・retrospective
【対象と方法】
ベルリン大学心臓外科で2003年から2013年に治療された人工弁IEが疑われる連続105例の人工弁113個について、微生物学的診断結果をレトロスペクティブに評価した。ほとんどの症例(n=111)では従来通り培養検査を実施(菌名確定は質量分析で)した。全例に対してFISHseqを追加で行った(2例はFISHseqのみ)。16SrRNAプローブとナンセンスプローブでスクリーニングし、DAPIでリポソームがないあるいは少ない微生物も可視化した。微生物が検出された場合にはFISH プローブのパネルを適用して、属または種特異的なレベルで同定した(FISHはリボソームをターゲットとする。FISH陽性微生物は活性型、FISH 陰性微生物はFISH 信号を発するのに十分なリボソームがないため不活性型と分類した)。
【結果】
血液培養陽性(2セット陽性):37/83例(44.6%) 連鎖球菌、ブドウ球菌(S.aureus、CNS)、腸球菌、カンジダが1例 。残る76例は術前血液培養がないか、判別困難(1set陽性を含む)、陰性だったということ。
弁培養陽性:23/111例(28.8%) 連鎖球菌は1例のみと減少し、相対的にCNSやその他の菌が増加 。残る79例は弁の培養が陰性か、複数菌検出のため断定が困難であった。 FISHseqにより113例中87例(77.0%)で細菌が検出され、51例(45.1%)で原因菌が同定された。113例中26例(23.0%)では、顕微鏡でもPCRでも病原体が検出されなかった。リボソーム含量が高いことを示すFISH陽性例はpossible IEよりIE確定で有意に多かった。
弁培養とFISHseq:双方で同じ病原体:17例 、FISHseqのみ陽性:27例(連鎖球菌の他、GNRやGPRが含まれる(T. whippleiを1例含む)) 、結果が異なる:6例 、培養のみ陽性:12例(CNS 5例、Sphingomonas paucimobilis1例、Micrococcus luteus1例を含む)
従来法(血液培養+弁培養)では45/113例で病原体の同定ができていたが、FISHseqの追加により67例で同定が可能だった。また得られた培養結果にFISHseqの結果を組み合わせて15/19例で原因病原体を確定できた。
【結語】
FISHseq は従来の培養法を補完し、人工弁IE診断を改善する。種の同定に加えて、FISHは重症度や病原体の状態(バイオフィルム形成の段階、活性、弁上および内部の局在など)についての情報を提供する。分子イメージング技術として、FISHseq は、皮膚細菌が汚染物質であるか感染性物質であるかを明確に識別することを可能にする。
組織培養検査はどうしても培養陽性率が低いことやコンタミネーションの問題がついてまわります。遺伝子検査は網羅的な検査であり、情報を補完しますが、高感度であるがゆえに診断がより困難になることがあります(コンタミか、真の起炎菌か)。FISHは局在を確認することでより真なる起炎菌か、あるいは弁との位置関係、リポソーム含量から感染がよりactiveなのか、バイオフィルム形成をしているのかなどの追加情報を与えてくれます。ただその分手間であることは間違いなく、他の分子生物学的手法に比べて特段優れているとは断言できません。研究のための研究にならないように、早くこうした検査の人的・コスト的問題を解決し日常臨床に近づけたいと考えています。
