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バンコマイシンにまつわるエトセトラ

バンコマイシン(VCM)といえば、言わずと知れた抗MRSA薬の筆頭であり、培われたエビデンスと実績から多くのMRSA感染症の第一選択薬となっています。
発見されたのは今から約70年前、承認からも60年以上経過した超ロングセラー抗菌薬の一つです。当初は不純物を多く含み、「ミシシッピの泥」と呼ばれましたが、精製方法が確立され、"Vanquish"(耐性菌を克服し、征服する)からVancomycinと名付けられたとされています。

VCMの投与方法といえば、ざっくりいうと
①Loading dose 25-30mg/kg(実体重)
②2回目以降は腎機能が正常なら15-20mg/kg(実体重)を8-12時間おき
③投与間隔、投与量についてはTDMを実施して調整する
投与設計はトラフ値15-20µg/mL(標的臓器による)より、AUC/MIC(=400-600を目標)をガイドとして用いることを推奨
でした。

トラフ値を確認する主な目的は最も問題となる有害事象の一つである腎障害を予防することにあります(〜15µg/mLくらいだと腎障害は起こりにくい)。
もう一つ有名な有害事象が「Vancomycin Infusion Reaction(VIR)」です。
いわゆる「アナフィラキシー様反応」といわれ、顔、首、および上半身のそう痒を伴う紅斑性発疹(時に四肢へ及ぶ)であり、筋力低下、血管性浮腫、胸背部痛を呈することもあります。肥満細胞および好塩基球からのヒスタミン遊離が直接的な症状の原因です。
かつては"Red Man Syndrome"と呼ばれていましたが、①その他の薬剤でも注入反応(Infusion reaction)を起こすので、VCMを含むこうした薬剤による注入対応対策についてまとめられること(知見をまとめて学際的なトレーニングに昇華)、②認知バイアスの回避(アナフィラキシーとの鑑別)、③人種差別的ニュアンスを含むこと、人種差の克服(白人男性で有意に報告が多いが、発見・記録されていないだけかもしれない)といった問題点から、次第に用いられなくなっています。

VCMの注入速度を遅くすることが予防法の一つです。
ボランティアへの投与(1gを1時間で投与vs.2時間で投与)実験から、2時間投与で頻度と重症度、および放出されるヒスタミンの量が減少することが示されています(Antimicrob Agents Chemother.1990;34(4):550-4.)また別の試験で、VCM1g/1hと500mg/1h投与を比較し、500mg/1h投与群で注入反応やヒスタミン増加を認めなかったことが報告されています(J Infect Dis.1988;157(3):502-7.)
また主に小児を中心としたretrospective cohortで、年齢(2歳以上)、VIR既往、VCM用量、VCM濃度がVIRのrisk factorsであると報告されました(Pediatr Infect Dis J. 2012;31(5):464-8.)。中でも注目されるのは5mg/mL以上のVCM濃度がリスクとされたことです。

以上のことからVCMの投与スピードは500mg/1h、濃度は5mg/mLが最も安全ですが、実際に全例そのように投与することは現実的ではありません。1g未満では1時間かけて、1g以上では2時間を目標に、大体500mg/30分以上で投与を試みることが多いと思います(注入反応を認めた場合には安全なプロトコルに変更したり、抗ヒスタミン薬の前投薬を考慮します)。希釈濃度についても実際は1g/100ml程度にすることがほとんどです(実際は濃度を上げることでVIRより溶解性が問題になることが多いのでは)。後発品によって溶解性が異なっている可能性があり、より少ない溶解液でも安全に投与できる可能性がありますが、注入速度についてはより慎重になる必要があります。小児ではより薄い濃度を目指した方が良いでしょう。

また海外では血中濃度の安定性や腎障害が軽減できる可能性があることから、VCM持続投与を積極的に行なっているところがあります。国内でも調節性や安全に高い血中濃度を維持するためにVCM持続投与を考慮する場面はあるかもしれません。

ただし持続投与では間欠的投与と比べて静脈炎のリスクについて特別視すべきかもしれません。基礎的な検討では間欠的投与と比較して連続投与でより低い濃度で血管内皮細胞障害を認めました(Antimicrob Agents Chemother. 2015;59(2):930-4.)。この場合希釈濃度がリスクとなる可能性があります(5mg/mL未満が望ましい。J Antimicrob Chemother. 2023 Feb 23;dkad044.)また末梢カテーテルからの持続投与だと血栓症リスクが問題になる(カテーテルの長さによらず)ようです(J Vasc Access. 2022;11297298221095778.)。持続投与を考えるときは中心静脈からの投与が無難だろうと思います。

間欠的投与でも高用量・頻回投与では静脈炎が問題となる可能性があります。できればより薄い濃度・低速度で調整することが望ましいと思いますが(その方が持続投与に近いAUC curveになるだろうということも合わせて)、こうしたことが問題となるケース(高度肥満など)ではダプトマイシンなど他の抗MRSA治療薬を選択する方が楽かもしれません(標的臓器と治療期間によりますが)。



by vice_versa888 | 2023-03-01 14:22 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888