ボリコナゾールによる肝障害
2023年 04月 22日
【背景】
ボリコナゾール(VRCZ)は深在性真菌症(IFD、特にアスペルギルス症)の予防と治療に用いられる抗真菌薬である。その代謝にはチトクロムP450酵素(CYP2C19、CYP3A4、CYP2C9)を介する。VRCZの薬物動態にはこれら代謝酵素の遺伝子多型、年齢、炎症、肝機能、薬物相互作用など多くの因子が関与しており、有害事象を減らし、臨床効果を得るために治療薬物モニタリング(TDM)が必要となる。こと、重症患者ではPKパラメータが大きく変動することから、これが治療成績を低下させる可能性がある。また肝障害・神経障害はVRCZの濃度上昇と関連することが示唆されている。
【目的】
・重症患者におけるVRCZトラフ(Cmin)を調べ、肝毒性との関連を検証する。
・肝毒性の発症率を推定し、ボリコナゾール肝毒性の発生と発症を特徴づける。
・危険因子を特定し、ボリコナゾール関連肝毒性の高リスク患者を識別する分類・回帰木(CART)モデルを構築する。
【対象と方法】
・中国で行われた多施設のretrospectiveコホート(2015.1〜2020.9)
・集中治療室に入室し、IFD(possible、probable、provenすべて含む)と診断され、VRCZによる治療を受けた、または抗真菌薬予防に使用した患者を特定し、 (1) 年齢18歳以上、(2) 7日以上のVRCZ投与、(3) 少なくとも1回の血中濃度モニタリングあり、(4) 肝機能検査が週1回以上行われている。
の条件を満たすものを対象とした。
・除外:妊娠、投薬・サンプリング時期が不明、医療記録が不完全、CYP3A4誘導剤やCYP2C19誘導剤の併用、入室時点で重度の肝疾患がある
・肝障害の定義:CTCAE ver5.0 グレード2以上(グレード3以上を重篤な肝障害と定義)
【結果】
・507例がスクリーニング➡️363例が研究の対象
・併存症として呼吸器感染症が56.5%➡️おそらくIFDとしてはIPAを中心としたアスペルギルス症が最多か(Proven or probableが38%)
・PKに関わる侵襲的治療として、ECMOが7.2%、RRTが23.4%
・59.2%が経静脈投与➡️Cminは投与方法によって有意に異なる(経静脈投与>逐次投与>経口投与)
・肝障害:グレード2;53例(14.6%)、グレード3;40例(11.0%)、グレード4;8例(2.2%)T-Bilの増加(59.4%、n=60)が最も多かった。
・平均Cminが1mg/L未満、1~5mg/L、5mg/L以上の患者における肝毒性発現率は、それぞれ15.6%、23.2%、45.9%であった。また、肝毒性患者(n=101)と肝毒性でない患者(n=262)のCminには有意差があった(4.79 ± 3.04 mg/L vs. 3.33 ± 2.43 mg/L;P=0.002 )。ロジスティック回帰分析により、ボリコナゾールのCminはグレード2以上の肝毒性またはグレード3以上の肝毒性と有意に関連していた。
・単変量➡️他の肝障害リスクを抽出し、多変量ロジスティック回帰分析を実施:Cminの他、敗血症性ショック、ST合剤やチゲサイクリンの併用が肝障害と関連していた。
・CARTモデル(グレード3以上の重篤な肝障害のリスク)
➡️(1) Cmin>6.87mg/L、(2) 肝障害リスクのある薬剤を3つ以上併用、(3) 敗血症性ショック
(22.7-36.8%の重篤な肝障害ハイリスク患者を推定)
【結語】
VRCZのCminが高いこと、敗血症性ショック、肝障害リスクのある薬剤の併用が肝毒性の強い予測因子であった。肝毒性を回避するために、VRCZの血漿中濃度を早期に(定常状態に達した時点で)モニターする必要がある。
VRCZによる肝障害はやはり濃度依存性があるということが改めて示された研究です。ただし重症患者では様々な理由で肝障害が発生するため、本研究で認められたすべての肝障害にVRCZが関連しているとはもちろん言えないでしょう(敗血症性ショックではしばしば胆道系感染と独立してT-Bilの上昇や肝逸脱酵素の増加を認めますし)。併用薬物として挙げられているST合剤やTigercyclineですけど、ST合剤はアレルギー反応としての肝障害が多く、テトラサイクリン系抗菌薬はまた別の機序による直接的な肝障害を起こしますが、Tigercyclineは単独で肝障害を起こす頻度は低いはずです(あまりVRCZとテトラサイクリンを併用したことがないのでわかりませんが、相加ではなく相乗効果があるかどうかはわかりません)。
重症患者、特に他の理由で肝機能障害(代謝異常)が起こりやすい状況において、VRCZの血中濃度予測は難しく、特にCYP2C19のpoor metabolizer (PM)が一定数いるアジア人では予想しない血中濃度上昇をきたす可能性は高そうです(実際にはこうした懸念からundertreatmentになる割合も多いようですが)。
(参照:肺真菌症とアゾール系抗真菌薬②)
個人的にはこうした毒性の懸念から、重症患者ではMCFGなど比較的安全性の高い抗真菌薬を併用しながらVRCZの投与量を調整(やや少なめから増量)することが多いです。TDMガイドラインにも明記されているように重症例や肝障害の懸念があるケースでは早めの3日目に濃度を測定し、PMと他の併用他剤の影響を考慮し、5日目にも再検するような方法をとっています。
今回のデータからもあまりメカニカルな治療が影響する可能性は低そうですね(水溶性薬物との違い)。
ちなみに、新規アゾール系抗真菌薬であるposaconazoleやisavuconazoleで肝障害が少ないかどうかについては非常に限られたデータしかありません。
・VRCZ肝障害➡️PSCZにしたけど大丈夫だった Clin Infect Dis. 2007;45(6):803-5.
・同種造血細胞移植レシピエントの予防的抗真菌薬(ISCZ vs. VRCZ)ではISCZの方が肝障害が少なかった Med Mycol. 2021;59(10):970-979.
おそらくこれらアゾールの薬物相互作用の少なさが影響したではないかと思いますが、 まだまだ知見が不足しています。
今後新規アゾール系抗真菌薬の肝障害の頻度や、血中濃度との関連、肝疾患患者への投与の安全性データなどが必要になってきそうです。
まとめ
○VRCZの肝障害は血中濃度と相関する
○重症患者や肝機能障害(の懸念)がある患者ではより早期の血中濃度測定を行った方がよい。
○新規アゾール系抗真菌薬は比較的肝障害の頻度が少ない可能性があるが、まだデータは十分ではない。
