今回参考にしている文献(レビュー)はこちら
βラクタム系抗菌薬の殺菌活性は、PK/PD指標であるfT>MIC(未結合状態の薬剤が菌の最小発育濃度(MIC)を上回っている時間)に依存しています。多くの場合、体格や腎機能を参考に投与設計すると思いますが、特に重症病態、ICUなどでは循環不全、低Alb血症、腎代替療法、体液シフト(胸水・腹水あるいは熱傷)、など薬剤の分布容積と排泄に影響を与える因子が多く、また刻一刻と変動していますので容易に過小/過大投与になってしまう可能性があります。
動物実験の結果からfT>MIC理想値の50-70%程度が達成されていれば有効性が得られることが想定されていますが、重症病態・感染症においては100%以上のより高いfT>MICが求められます。血中濃度を測定し、過剰投与を予防したり、適切な投与設計を行うことは利点がありそうですが、βラクタム系抗菌薬の血中濃度測定は保険収載されていませんし、検査室、研究室でも(研究用を除いて)実施している施設は相当少ないと思います。最大のデメリットはコスト(人的なものを含む)です。問題はコストを上回るようなメリットがあるかどうかということになります。
○βラクタム系抗菌薬TDMの利点ー臨床転機の改善ー
βラクタム系抗菌薬のTDMについては、複数の研究が行われていますがその多くが観察研究です。
50%fT>MICまたは100%fT>MICを達成できたかどうかと臨床転機を比較した試験です。50%fT>MICが達成できなかったグループでは臨床転機が良好である割合が32%低下したと報告されています(特に投与回数の多いであろうAMPC/ABPCやPIPCで達成率が低いということに注意)。
FN患者に対するMEPM投与の後ろ向きの検討ですが、non-responderでは平均T>MICが低いという結果でした。
ICUにおける後ろ向き試験。fT>MICおよびfT>4×MICは臨床的治癒と関連していました。また十分な抗菌薬投与はICU滞在期間の短縮とも関連していました。
ただし、TDMガイドによる抗菌薬投与戦略が臨床転機を改善させる可能性はあまり高くないようです。
本レビューでも複数の小規模RCT、retrospectiveコホート研究が紹介されていますが、死亡や入院期間といったアウトカムを改善できたほうこくはほぼありません。
小規模RCTをまとめたメタ解析(Beta-Lactam Antibiotic Therapeutic Drug Monitoring in Critically Ill Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis.
https://doi.org/10.1093/cid/ciac506 )でも、治癒率、微生物学的奏効率などを改善させる可能性はあるものの、死亡といったハードアウトカムとは関連しないことが示唆されています。
抗菌薬の持続投与は重症患者でもT>MICを維持しやすい可能性があり、またTDMとの相性も良いです。ただ、実際にPIPC/TAZ持続投与をTDMガイドに行ったこちらのRCTではTDMガイドの利点を見出せませんでした(Effect of therapeutic drug monitoring-based dose optimization of piperacillin/tazobactam on sepsis-related organ dysfunction in patients with sepsis: a randomized controlled trial.
https://doi.org/10.1007/s00134-021-06609-6 )
またMERCY trial(MEPMの持続投与 vs. 簡潔投与)でも、持続投与の利点(死亡率、薬剤耐性菌の出現)を示せませんでした(
https://doi:10.1001/jama.2023.10598 )し、適切なTDMを行なって、十分量の抗菌薬投与を行うことでハードアウトカムにおいて恩恵を得られる患者というのはかなり限定的な集団なのかもしれません。
本レビューでもこの点については言及されています。対象群においても十分な抗菌薬投与がなされていたり、原因菌の多くが十分低いMIC値であったりすれば、その差を描出することは困難になります(=逆にいえばほとんどの患者は過小投与を気にしないでよいということになりますけど)。
抗菌薬の分布容積と排泄に関連する因子が多いといった背景のある重症患者で、ソースコントロールが困難、または薬剤耐性菌による感染症を発症している場合 などが、TDMを考慮する主たる患者集団になる可能性がありそうです。
○βラクタム系抗菌薬TDMの利点ー毒性のコントロールー
一方で問題となるのは過剰投与による毒性リスクです。神経毒性、肝毒性、腎毒性、骨髄抑制などと関連があることが報告されています。
有名なのはセフェピム(CFPM)を代表とする抗菌薬関連脳症(Antibiotic-associated encephalopathy, AAE)です。
実際のところどのくらいのCFPMの投与量/濃度が脳症リスクと関連がするのかは推定されていますが、閾値については正確にはわかっていません。
また今年興味深い前向き研究の結果がpublishされています。
フランスで行われた単施設前向き観察研究
P:βラクタム系抗菌薬を投与された神経障害のない成人敗血症患者
E: 最初に測定されたβ-ラクタム薬の血清中濃度が過剰*
C: 血清中濃度は適切
O: GCS(またはRASS)の1点以上の悪化 副次評価項目:機械的換気の期間、鎮静終了から抜去までの時間、生存退院までの時間、死亡率
【結果】
119例中、38例が過剰な濃度(Excessive BL concentration)と評価された。
調整ロジスティック回帰分析では、Excessive BL concentrationは神経学的悪化と関連していた(OR (95%CI)=10.38 (3.23-33.35))。
また生存退院までの期間の延長や抜管までの期間の延長とも関連していた。
【結語】
この結果は、βラクタム薬の過剰な曝露がICUにおける敗血症患者の管理を複雑にする可能性を示唆しており、推奨される上限濃度(=fT< 8× MIC)の臨床的妥当性が確認できた。
決してサンプルサイズが大きくないですし、原因微生物、鎮静薬の使用量など未調整の交絡因子の存在が否定できませんが、もしかしたら知らず知らずのうちに抗菌薬過剰投与がAAEまでではないにしても中枢神経へ影響を与えている可能性 が示唆された結果でした。おそらくβラクタム系抗菌薬による影響は可逆的なものだと思いますが。
どういった患者で注意すべきかまではこの研究では明らかになっていませんが、やはりAAEの最も大きなリスクである腎不全(特に元々慢性腎不全が背景にある)の患者で注意を払うべきなのでしょう。鎮静薬自体も効果が遷延してしまうので合わせて注意ですね。
以上から、やはり重症患者すべてにβラクタム系抗菌薬のTDMを行うべきだとは思えません が、背景に腎機能障害がある、熱傷など分布異常の問題もあるような患者に対して、ソースコントロールが困難ないし薬剤耐性菌に対して長期間治療を行うような場合 にβラクタム系抗菌薬の血中濃度(特にペニシリン系やCFPMやCTRX)を測定できるようにしておくと効果および副作用対策の面で利益があるのではないかと思いました。少なくともいざという時に測定できるように普段からいろんなところと連携しておきたいですね。
まとめ
○βラクタム系抗菌薬のTDMは本邦含めてほとんど実施されていない
○TDMを実施することによるメリットは少ないか、一部の患者に限定されるのかもしれない
ただし、質の高い研究はそれほど多くない
○βラクタム系抗菌薬も過剰投与による害がある(特に中枢神経)
○効果と副作用のバランスをとるのが難しい一部の重症患者では、TDMを実施できるように環境を整えたい
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