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バンコマイシンとβラクタム系抗菌薬の併用は本当に急性腎障害リスクとなるのか?

今回の記事の元になっているレビュー文献はこちらです。

1)βラクタム系抗菌薬とバンコマイシン(VCM)の併用による腎障害
βラクタム系抗菌薬は一般に免疫反応が介在するアレルギー機序による急性尿細管間質性腎炎を起こすことで、腎障害を引き起こすことがあります(時々、“投与量調節”と腎障害を誤解して理解している方もいますが...)。
一方VCMやアミノグリコシド系抗菌薬などは用量依存性に急性尿細管壊死を引き起こすため、投与量や血中濃度による調整、つまり治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)が必要になります。
重症患者の経験的治療としてしばしばβラクタム系抗菌薬(多くは抗緑膿菌活性のある薬剤)とVCMの併用療法が行われますが、腎障害の機序が異なるので「相加的」に腎障害リスクが上昇することは十分想定されます。
ところがCFPM+VCMと比較してPIPC/TAZ+VCMで腎障害が増加することが複数の観察研究で明らかとなりました。一方で、否定的な論文も多数publishされており、PIPC/TAZ+VCMの併用による腎障害の機序がよくわからないまま、なんとなく併用を避けた方が良いのかなという空気感だけが醸成されています。
この辺りのお話は以前記事にまとめています(Piperacillin/tazobactam+VCMによる腎障害)。
また抗MRSA薬(VCM or DAPT、ただし実際はほぼVCM症例のみ)と抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬の併用による効果を検証したRCTにおいて、介入群(VCM+flucloxacillin)で腎障害が増加したことから試験が早期中止に至っており、問題となりうるのはPIPC/TAZだけではないようです(CAMERA2試験 DOI: 10.1001/jama.2020.0103.)。

2)想定される併用による腎障害の機序
・VCMによる腎障害
VCMによる(尿細管上皮)腎障害は、尿細管や血中からuptakeされたVCMが活性酸素種の増加やミトコンドリア機能障害を介して尿細管上皮のアポトーシスを誘導することと想定されています。VCMへの曝露量が増えると用量依存性に尿細管上皮障害が増悪することが確認されています。
ただし①併用薬による腎機能障害(クレアチニン上昇)、②VCMそのものが腎排泄の薬剤である、ということから、クレアチニンベースで腎機能障害を認識するために、ループ利尿薬などその他の原因で腎機能障害をきたした場合もVCM血中濃度が上昇するので、臨床ベースで観察される腎機能障害すべてがVCMが直接関与したものではないことに注意が必要です(結局、VCM投与量を減らす必要はありますが)。

・VCMと併用することにより腎障害リスクを上昇させるβラクタム系抗菌薬の特徴
尿細管上皮の基底膜側に発現している有機アニオントランスポーターは薬物の尿中排泄に関わる分子ですが、基底膜から近位尿細管細胞への取り込みの第一段階を担う重要なものがOAT-3と呼ばれる分子です。このOAT-3との結合能(βラクタム系抗菌薬は阻害的に作用します)とVCMとの併用による腎障害リスクに関連があることが本Reviewで示されています。OAT-3への結合能が高いほと、腎障害が起こりやすい直線的な相関が認められました。
またVCMとセフトロザン/タゾバクタム(CTLZ/TAZ、ザバクサ®️)とPIPC/TAZのいずれかを併用した場合の急性腎障害リスクについて検証した論文がpublishされており(DOI: 10.1093/cid/ciac670)、PIPC/TAZ群で有意に急性腎障害が多かったことを踏まえてもリスクになるのはβラクタマーゼ阻害薬ではなく、βラクタム薬のようです(CTLZの急性腎障害リスクが低いということ)。
少なくともこれらのリスクがある薬剤は近位尿細管細胞へuptakeされやすく、VCMと併用した場合にミトコンドリア障害を助長する可能性が高まるようです。ただし、本レビューでも2つの薬剤の相乗効果を直接的に証明したデータは提示されていません。

・本当の急性腎障害なのか、みかけのクレアチニン上昇なのか
これも以前の記事(Piperacillin/tazobactam+VCMによる腎障害)で論じましたが、OAT-3を阻害し、結果としてクレアチニンの尿細管への分泌が阻害されることで見かけ上Cre上昇による急性腎障害を呈しているのではないかという議論です。シスタチンCベースの腎障害は増加しなかったという報告もありました(DOI: 10.1007/s00134-022-06811-0.) 研究により腎障害の定義が異なることや比較的ハードなアウトカム(透析導入など)については検出力の問題があり、真なる腎機能障害であるのかどうかはまだ結論が出ていません

というわけでLancet IDに総説が掲載されたわけですが、やはり現時点で決着はついていないというのが本当のところのようです。
「可能なら腎障害リスクのある組み合わせは避けよ」という結論は正しいと思いますが、以前また別の記事でも結論づけたように(抗緑膿菌活性を持つβラクタム薬とバンコマイシンの併用〜CDIとAKIリスク〜)、そもそも抗緑膿菌活性のある薬と抗MRSA薬を併用すべきかどうかからきちんと考えるべきでしょうね。
濃厚な医療曝露かつ後がないケースでの使用は当然としても、適切な培養検査の提出や戦略を考えることは重要です。また使用する抗MRSA薬としてVCMが最適であるかどうかも重要な論点であると思います。

まとめ
PIPCとVCMの併用は急性腎障害(クレアチニンベース)のリスクとなりうるが、まだ直接的な証明は不十分である

課題1
透析導入といったアウトカムに関わるような指標を用いた両者の比較
(ここまでデータがあると倫理的に前向き介入試験は組めないのではという論調だが)
課題2
βラクタム系抗菌薬の併用でVCMによるミトコンドリア障害が増加する基礎的な証拠を増やす
課題3
シラスタチンなど腎障害を減弱しうる薬剤の併用でリスクを減らせるかどうかの検証

by vice_versa888 | 2023-10-30 14:16 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888