敗血症における適切な抗菌薬投与タイミングは?
2024年 01月 20日
1)乳酸値の測定2)血液培養採取3)迅速な広域抗菌薬投与4)低血圧や高乳酸血症に対して、晶質液を30ml/kg投与
【背景】
これまでの有力な研究では、敗血症では抗生物質投与までの時間が長いほど死亡率が上昇すると結論づけている。しかし、これらの解析はしばしば、(1)限られた共変量で調整し、(2)抗生物質投与までの期間が長い患者を対象とし、(3)敗血症と敗血症性ショックを混在させ、(4)各投与時間の遅れが一律に影響すると仮定した線形モデルを用いている。これらの分析上の選択が、抗生物質投与までの時間と死亡率との関連に及ぼす影響を評価した。
(問題点)
1)未調整の交絡因子の存在:より早期に抗菌薬を投与される患者は、より死亡リスクが高いと考えられる背景(併存疾患など)を有している可能性があるが、過去の研究では併存疾患を調整していなかったり、併存疾患の種類による調整を行っていないものが多い。
2)投与までの時間が長い患者をコホートに含めること:ERに到着して初回抗菌薬投与まで6時間以上かかるようなケースは稀である(=外れ値)。時間ごとの死亡率上昇について解析するなら推奨される投与時間前後について解析すべき
3)ショックを伴う敗血症と伴わない敗血症を混合すること:ER到着時のショックの存在は死亡率と抗菌薬投与までの時間に影響を与える
4)抗菌薬の影響を投与されるまでの各時間ごとに一律に仮定したモデルを使用すること:非線形の可能性のある関係を線形化した推定値で提示することは、どの時間を検討しても、抗生物質治療までの1時間の遅れごとに死亡率の対数オッズが一定に増加するという誤解を生じさせる可能性がある(実際先行研究では非線形が示されている。J-curveを採用している研究もある)
【方法】
2015~2022年に5つの病院(Mass General Brighamシステム内の5病院)に入院した感染症疑い(血液培養採取および到着後24時間以内の抗生物質静注)の成人104248例をレトロスペクティブに同定した。その内訳は敗血症性ショック疑い25990例、ショックを伴わない敗血症23619例であった。多変量回帰を用いて、交絡調整、抗生物質投与間隔の最大期間の短縮、重症度による層別化、線形時間的関連性の仮定の解除を順次広げた条件下で、抗生物質投与までの時間と院内死亡率との関連を算出した。
除外:ER到着後6時間以内の緩和治療、死亡、院外からの転院、精神科または産科への入院、ER到着後12時間以内の完全なバイタルサインの欠測、またはクレアチニン、血小板数、白血球数(WBC)の欠測(検査室採取時間に基づく)、ER到着前またはER到着後の抗生物質の経口または静脈内投与
【結果】
共変量、最大抗生物質投与時間、重症度層別化を変更することで、抗生物質投与時間と死亡率の間に観察された関連性の大きさ、方向、有意性が変化した。6時間以下の治療を受けた患者の完全調整モデルでは、時間ごとに敗血症性ショックの死亡率の上昇と関連していた(aOR:1.07;95%CI:1.04-1.11)が、ショックを伴わない敗血症(aOR:1.03;0.98-1.09)や感染症疑い単独(aOR:0.99;0.94-1.05)では関連していなかった。各時間を個別にモデル化したところ、1時間遅れるごとに敗血症性ショックの死亡率が上昇することが確認されたが、6時間を超える遅延のみがショックを伴わない敗血症の死亡率の上昇と関連していた。
【結論】
敗血症における抗生物質投与までの時間と死亡率との関連は、分析法の選択に大きく影響を受ける。これらの問題に十分に対処しないと、誤解を招きやすい結論が導き出される可能性がある。
現行の敗血症バンドルにおいても敗血症性ショック患者に対する抗菌薬投与は迅速に(1h以内に)とされており、本結果はこれを裏付けるものでした。
一方ショックを伴わない敗血症や感染症疑いについては抗菌薬投与時間と死亡率の間に関連を認めませんでした。とはいえ多くのケースでER到着から3時間前後までに初回抗菌薬投与が行われていたようです。
一方敗血症バンドルの遵守が死亡率を改善させるかどうかについては、質の高い根拠が多くありません。
Medicare & Medicaid Servicesにおける支払い措置として敗血症バンドルを用いることが計画されているそうで、特に敗血症疑いについても3時間遵守ルールを科すSEP-1というバンドルを用いようとしているのだそう。IDSA/ACEP/PIDS/SHEA/SHM/SIDP 合同のPosition Paperが提出され(PMID: 37831591)、バンドルの各項目について支持する根拠が多くないこと、不適切な抗菌薬使用につながることが懸念されています。
少なくとも抗菌薬投与については(6時間を超えるような大幅な遅れでない限り)、敗血症性であっても死亡に寄与するリスクはそこまで大きくないのかもしれません。抗菌薬の投与については投与前に十分考える、あるいは投与後に継続すべきかどうかを再考する十分な時間があるようですね。当たり前ですが、きちんと感染症の診断を行うことが大事なのではないでしょうか。
1)敗血症(感染症)かどうか
いわゆる“Pseudosepsis"と呼ばれる非感染性の病態でないかどうか、病歴や身体所見(特に皮疹)を確認したいです。
有名なものは内分泌的緊急疾患(急性副腎不全/甲状腺クリーゼ、DKAは感染が契機のことも多いですが)、慢性肝不全の増悪、急性膵炎、サイトカイン放出症候群(CRS)、免疫チェックポイント阻害薬による免疫介在性有害事象(ここにCRSも入る)、TAFROやcapillary leak syndromeなどがあります。
その他、SFTSなど重篤なウイルス感染症の可能性も時に検討する必要があります。やっぱり病歴と皮膚所見は大事です。
ここに稀だけど重篤なものが含まれることには注意が必要です。とはいえしばしば感染を否定できなくて重症例では抗菌薬投与を先行してしまうわけですが。
2)どこの感染症か
“十分に広域である”ためには、感染巣を同定(推定)しなくてはいけません。なぜならばカバーすべき抗菌薬のスペクトラムが異なることと、臓器移行性を考慮すべき場合があるからです。なんでもカルバペネム系抗菌薬を使えば良いというものではなく、市中肺炎でフルカバーであるなら、レジオネラ肺炎を想定してマクロライドやキノロンの併用が必要ですし、リケッチア感染症を想定するならテトラサイクリン系抗菌薬の投与が必要です。
また感染を早期に終結させるためには適切な培養検査とソースコントロールを行うことが抗菌薬選択よりも重要です。早期広域抗菌薬投与よりも大事です。
そして感染巣が判明すれば推奨される抗菌薬の投与期間が決まりますし、感染臓器所見の改善を指標にできます。
初期評価と異なる感染巣が見つかることもしばしばありますから、猶予のない症例では初回抗菌薬投与を行い全身を立て直しつつ、外傷よろしくsecondary、tertiary surveyが必要ですね。
まとめ
・非敗血症性ショック患者では関連を認めなかった・敗血症性ショック患者では、初回抗菌薬投与タイミング(時間ごと)と死亡との間に関連が認められた
・そもそも投与タイミングが死亡率に与える影響は(よほど遅れなければ)大きくないのかもしれない・(超重症例を除いて)いつ抗菌薬を投与するかよりも、まずは感染症か否か、focusはどこかを考えることに注力したほうが良い
