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ノカルジア ST合剤の予防投与は有効か?

前回に引き続き、日和見感染症に対する予防投与(ST合剤)のお話です。
ノカルジアについては以前にも記事「ノカルジアについて考える」で少し解説しました。

Passerini M, Nayfeh T, Yetmar ZA, Coussement J, Goodlet KJ, Lebeaux D, et al. Trimethoprim-sulfamethoxazole significantly reduces the risk of nocardiosis in solid organ transplant recipients: systematic review and individual patient data meta-analysis. Clinical microbiology and infection : the official publication of the European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases. 2024;30(2):170-7



【背景】

ST合剤(TMP-SMX)による予防が固形臓器移植(SOT)レシピエントにおけるノカルジア症を予防するかどうかについては議論がある。


【目的】

SOT後のノカルジア症予防におけるST合剤の効果、用量反応関係、播種性ノカルジア症の予防効果およびブレークスルー感染時のST合剤耐性リスクを評価すること


【方法】系統的レビューおよび個々の患者データのメタ解析。


研究適格基準: (a)ST合剤による予防を行ったSOTレシピエントと行わなかったSOTレシピエント間のノカルジア症のリスク、または(b)Breakthrough感染におけるST合剤耐性率を決定するのに十分な詳細データがあること

TMP-SMX予防投与と予防投与なしを比較する

バイアスのリスクの評価: 比較研究ではRisk Of Bias In Non-randomized Studies-of Exposure(ROBINS-E);非比較研究では専用ツールを使用

データ統合の方法: 主要アウトカム(すなわち、ノカルジア症のリスクに対するST合剤の効果を明らかにする)については、one step混合効果回帰モデルを用いてアウトカムと曝露との関連を推定した。単変量および多変量の無条件回帰モデルを用いて、潜在的な交絡効果を調整した。エビデンスの確実性はGRADEアプローチを用いて評価した。


【結果】

ST合剤による予防の有無によるノカルジア感染リスクの比較基準を満たす観察研究5件と非比較研究8件を含む、合計13件の研究がシステマティックレビューに含まれた。

3件の症例対照研究から個々のデータが得られた(ノカルジア症に罹患したSOTレシピエント260人と非感染対照519人)。25%がノカルジア症発症時にST合剤を投与されていた。

上記の3研究におけるノカルジア種は

N. farcinica(28.4%)、N. nova complex(23.5%)、およびN. cyriacigeorgica(11.2%)の3つが主要なものであった。


TMP-SMXの予防はノカルジア症のリスクの有意な低下と独立して関連していた(調整OR = 0.3、95%CI 0.18-0.52、中等度の証拠確実性)。ノカルジア症のリスク上昇と独立して関連した変数は、高齢、副腎皮質ステロイドの現在の使用、カルシニューリン阻害薬濃度の高値、最近の急性拒絶反応、リンパ球数の低下、心臓移植であった。

6ヵ月間の全死因死亡率は対照よりもノカルジア症を発症したSOTレシピエントの方が有意に高かったが、ノカルジア症を発症した患者のうち予防投与を受けている患者と受けていない患者では、ノカルジア症を発症した場合の死亡率に統計学的な差はなかった。播種性ノカルジア症の減少には寄与していなかった。


Breakthrough感染(66/260、25%)は一般にST合剤に感受性であった(プール割合98%、95%CI 92-100)。


【結語】

SOTレシピエントではST合剤の予防投与はノカルジア症のリスクを低下させる可能性が高い。Breakthrough感染ではST合剤耐性は稀である。


どうしても除外できないバイアスがあるものの、ノカルジア症自体がSOTレシピエントといえどそう多くないため(地域差もあるよう)、質の高いRCTを組むことが難しい問いであると思います。基本的にはST合剤の予防投与が推奨(少なくとも半年間)されていますし。抽出されたリスクはそのほとんどがこれまでにも報告されているものですが特に重要なのは、ステロイドの使用(と量)、カルシニューリン阻害薬、CD4+細胞数を含むリンパ球低下ですかね。こうしたリスクのある患者についていつまで予防投与を続けるかは議論の余地がありそうです。

一方でノカルジアの予防そのものは死亡への影響はそう大きくないのかもしれません。他の薬剤でPjP予防を行なったとしても基本的には問題ないのかもしれませんが、その他トキソプラズマなどの予防にもならないのでやっぱり可能ならST合剤を選択したいです。


ちなみにSOTレシピエントでは、定期的なスクリーニングや肺陰影、状態悪化時に真菌感染症を念頭に血清学的検査としてβ-D-グルカンが提出されることがあります。ただこれノカルジア症でも上昇することがありますのでご注意ください(IDCases, 2021BMJ Case Rep, 2020)。


またST合剤投与中のBreakthrough感染でも基本的にST合剤は使用可能ですが、耐性が全くないわけではありませんのでAMKの併用や脳膿瘍ではIPM/CS+AMKを選択します。この他LZDは基本的に感受性があり、empiricにはこれらの薬剤から選択します。

感受性検査は一般的な検査室では実施してないことがありますが、幸い薬剤耐性は菌種と関連していることが多いので菌名で後治療を選択することが可能です(J Antimicrob Chemother, 2023)。

(例えば、N. asteroides ST合剤使える、N. brasifiensis ST合剤使えるしAMPC/CVA OKなこともある、N. nova ST合剤だとダメなこともあるかもしれない、などなど)

ただ同定検査はMALDI-TOF MSでもまだ正確じゃないことがある(稀なやつは読めない)ので、当院ではWGSでも同定しています。



まとめ

○SOTレシピエントに対するST合剤予防投与はPjPだけでなくノカルジア症の予防に寄与するかも

○特にステロイドやカルシニューリン阻害薬の量が多い場合やリンパ球減少(CD4+)はハイリスク
Breakthroughにも注意

Breakthrough感染でも基本的にST合剤は使用可能

○結局重要なのは診断です


by vice_versa888 | 2024-02-19 11:53 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888