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抗GM-CSF自己抗体は非HIV感染クリプトコッカス髄膜脳炎の予後不良を予測する

学会やら論文のReviseやらでだいぶ更新が遅れてしまいました。

今回は万人受けはしないでしょうが、個人的に重要と思った研究の紹介です。

Jiang YK, Zhou LH, Cheng JH, Zhu JH, Luo Y, Li L, et al. Anti-GM-CSF autoantibodies predict outcome of cryptococcal meningitis in patients not infected with HIV: a cohort study. Clinical microbiology and infection : the official publication of the European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases. 2024.

内容の紹介はさらっと


【目的】
非HIVクリプトコッカス髄膜脳炎(CM)における抗顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)自己抗体の有病率を調査し、生存に対する予測価値を評価すること。

【方法】
非HIVクリプトコッカス髄膜脳炎の12年間の後方視的研究である。血清抗GM-CSF自己抗体を検出し、臨床的特徴と転帰を評価するとともに、2週間生存率および1年生存率の予後因子を探索した。(抗GM-CSF自己抗体は≧8 μg/mLを陽性とし、中和活性についてもPBMCを患者血清、陰性コントロールとincubateしてGM-CSFによるp-STAT5産生をフローサイトメトリーで確認している)

【結果】
合計584例の非HIV-CMが対象となった。584例中301例(51.5%)は表現型として健常であった。脳脊髄液培養から264株のクリプトコッカスが分離され、そのうち251株がC. neoformans species complex、13株がC. gattii species complexと同定された。455例中37例(8.1%)が血清抗GM-CSF自己抗体陽性であった。抗GM-CSF自己抗体を有する患者は、C. gattii species complexに罹患しやすく(66.7% vs 6.3%、p<0.001)、直径3cmを超える肺腫瘤病変を発症しやすかった(42.9% vs 6.5%、p=0.001)。584例中16例(2.7%)が2週間以内に死亡し、563例中77例(13.7%)が1年後に死亡し、486例中93例(19.1%)が1年後に障害が残存していた。単変量Cox回帰分析では、抗GM-CSF自己抗体が1年生存率の低下と関連していた(HR 2.66、95%CI 1.34-5.27、p=0.005)。多変量Cox比例ハザードモデリングにより、髄液クリプトコッカス抗原価≧1:1280は、2週生存率および1年生存率の低下と関連していることが明らかになった(HR 5.44、95%CI 1.23-24.10、p=0.026およびHR 5.09、95%CI 1.95-13.26、p=0.001)。

【結論】
血清抗GM-CSF自己抗体の存在は、宿主の免疫状態や原因となるクリプトコッカスにかかわらず、予後不良の予測因子である。

◯GM-CSFについてGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子:Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor)は、骨髄前駆細胞を刺激して顆粒球やマクロファージの分化誘導を行ったり、成熟した骨髄細胞の生存および活性化に関連しています。通常血清中のGM-CSF濃度は非常に低いですが、一部の炎症性疾患では血清や局所での増加が認められています。化学療法等に伴う好中球減少に対してGM-CSFを投与して回復させるという目的で薬剤の開発が行われましたが、G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤が主流となっています。

◯抗GM-CSF自己抗体と肺胞蛋白症(PAP)
抗GM-CSF自己抗体は自己免疫性肺胞蛋白症(aPAP)の病因として有名かつ重要です。本邦には700-800人程度と稀な疾患です。この抗GM-CSF自己抗体が肺胞マクロファージや好中球の機能障害を起こし、サーファクタントの分解が障害されることで肺胞内にサーファクタントが貯留し、PAPが発症すると考えられています。
・難病情報センター 肺胞蛋白症https://www.nanbyou.or.jp/entry/4775
・日本呼吸器学会 肺胞蛋白症診療ガイドラインhttps://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20220618150803.html
標準治療は全肺洗浄(全身麻酔下で20~30Lの生理食塩水で肺を洗浄する)でしたが、負担も大きい治療でした。GM-CSF吸入療法の臨床試験が本邦・海外で行われ(N Engl J Med, 2019;381(10):923-932. N Engl J Med, 2020;383(17):1635-1644.)
現在保険適用を目指しているところです。
(2024.3.27追記)
自己免疫性肺胞蛋白症治療剤『サルグマリン®️吸入用 250μg』が製造販売承認されました。
これでaPAPの患者さんたちが保険診療でGM-CSF吸入療法を受けることができるようになります。

その他、血液疾患や自己免疫疾患や感染症などに続発するPAPもあります。

◯PAPと易感染性
PAPではしばしば肺を中心に感染症を合併します。多いのは抗酸菌(結核、非結核性抗酸菌症)、ノカルジア、真菌(アスペルギルス、ニューモシスチス)です。この背景にはやはり抗GM-CSF抗体の存在により、肺胞マクロファージや好中球の機能が低下していることが影響していると考えられます。また逆にこれらの感染症がPAPの画像所見とパラレルな挙動を示し、感染症の治療によりPAPが改善した報告も散見されます。
今回のCMIの報告では、半数程度が(少なくとも表現型としては)健常者であるコホートであり、抗GM-CSF自己抗体の存在がクリプトコッカス髄膜脳炎の発症や増悪に影響している可能性が示唆されています。おそらく頻度から言っても、このコホートに肺胞蛋白症の患者さんはほとんど含まれていないのではないかと思いますが、記載されていないのでなんともいえません。肺クリプトコッカス症やクリプトコッカス髄膜脳炎は免疫的に健常な若年者にも発症することがありますが、もしかしたら背景に抗GM-CSF自己抗体などそこまで高頻度に感染を繰り返すほどではないけれども感染・増悪リスクになるような何らかの免疫(シグナル)異常があるのかもしれません。少なくともaPAPを発症していなかったとしても、抗GM-CSF自己抗体保有者はある種の原発性or続発性免疫不全と見做すべきでしょうね(ニワトリか卵かわからないところはありますが)。

by vice_versa888 | 2024-03-19 10:30 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888