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ガイドラインで示されなかった、その先へ 終末期の感染症

先日の記事、成人肺炎診療ガイドライン2017→2024色々反響がありました。
全体的な改訂ポイントについては前回の記事を参照いただきたいのですが、やはり2017年に引き続き、終末期肺炎についてフォーカスされていることが本邦のガイドラインとして特筆すべきところだと思います。

誤嚥性肺炎の抗菌薬選択について
今回誤嚥性肺炎のSRも実施され(すでに論文が出ています J Clin Med. 2023;12(5):1992.)、推奨度こそつきませんでしたが、ルーチンでの嫌気性菌カバーは不要である可能性が示されています。
また今年に入って、大規模な後ろ向きコホート(Overlap Weightで重み付け)研究がpublishされており、いわゆる誤嚥性肺炎に対して嫌気性菌カバーを行わない群(CTRX、CTX、LVFX)とカバーした群で死亡率に差がないこと、嫌気性菌カバーでわずかにC. difficile腸炎が増えることが示されました(Chest. 2024:S0012-3692(24)00260-5.)

また、以前の記事でも述べましたが、一部のウイルス性肺炎(RSVやhMPV)は誤嚥性肺炎と区別がつきにくい(あるいは合併している)こともあります(参考:成人におけるhMPV感染症の特徴)。
色々検査(それこそMultiplex PCRなど)もありますが、一番は病歴だと思います(参考:市中肺炎と“浸潤影のない”肺炎(SPWI)の臨床像の比較)

肺膿瘍や膿胸をきちんと区別し、歯性感染症の有無も確認した上で、嫌気性菌カバーをしないことを検討した方がよいでしょう。
動物モデルを含む研究ですが嫌気性菌カバーはマイクロバイオームをより変化させ、死亡率を上昇させる可能性も示唆されています(Eur Respir J . 2023;61(2):2200910.)
少なくともなんでもかんでもABPC/SBTとかPIPC/TAZというのはやめておいた方が良いと思います。
(投与回数と水分の少なさからCTRXを選択するか、偽胆石症を懸念してCTXを選択するか、化学性肺炎やウイルス性肺炎を想定して抗菌薬フリーでしばらく経過観察するか、など)

○感染症の終末期、あるいは疾患終末期における感染症について

Karlin D, Pham C, Furukawa D, Kaur I, Martin E, Kates O, et al. State-of-the-Art Review: Use of Antimicrobials at the End of Life. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America. 2024.

非常に先進的、示唆的なレビューが出ています。

この論文のFigure.1だけでも目を通してください。


1)EARLY CONVERSATIONS AND SETTING EXPECTATIONS

進行がんに合併した感染症はしばしばそのソースコントロールが困難であるために治癒に時間がかかったり再発したりします。

そして繰り返すほどに原因菌は耐性化し、治療選択肢が少なくなってきます。

患者さんに対して、感染症が再発しうることや「不治の病」になっていくことを説明する必要がありますし、主治医チームあるいは緩和ケアチームと情報を共有する、ケアの方向性を定めていくことが大事になります。


2)MANAGING SIDE EFFECTS FROM ANTIMICROBIALS

臓器障害の進行や併用薬との兼ね合い、何より患者さん自身の体力の低下を背景に、抗菌薬の副作用が目立ちやすくなります(CD腸炎もそう)。一方で耐性化により治療選択肢は少なくなり、治癒にも時間がかかるようになります。感染症に対する治療がエスカレーションしていくことや、抗がん剤も進歩しており(ある程度回復してくると)治療選択肢が残っているような場合もありますが、このことは「治療の止め時」や「終末期に向けての話し合い」をさらに難しくしていくと考えられます。

誤嚥性肺炎の反復もそうですが、このような場合には「治療の目的(Goal of Care)」を話し合い、着地点を模索していくことが重要になります。Goal of Careを話し合うための方法論、フレームワークとして「REMAP」が提案されています。


R:Reframe    予想される臨床経過の現在の理解と、治療目標を再検討する根拠を明確にする

E:Emotion    言語的、非言語的を問わず、感情的な反応を認めて対応する  “NURSE"も大事ですね

M:Map      患者と家族が表明した優先事項を概説する  何をしたいか?何が心配か? 例示することも

A:Align      患者の核となる価値観や嗜好として聞いたことを振り返る

P:Propose a plan 伝えた目標と優先順位に基づいた明確な推奨を行う


3)INTENSIVE CARE: EXPLORING END-OF-LIFE WISHES

しばしば感染により重症化してICUなどへ入室することがありうるわけですが、ICUへの入室は緩和ケアの問題に取り組むためのタイミングの一つです。重症病態から回復したとしても機能予後が低下してしまうため、ゴールの再設定が必要ですし、患者もその家族もその必要性を強く感じるタイミングでもあります。抗菌薬治療についてもベネフィットを必ずしも治癒に設定せずにケアのゴールを定めていくことになります(再度 REMAP)。

予後不明であるとか不良であるが患者およびその家族が積極的治療を希望する場合にTime-limited trialを行うことも検討できます。

改善あるいは進行を示す客観的指標とそれをいつ確認するのかについて話し合った上で介入し、有効でないと判断された場合には抗菌薬治療の中止(特にリスクがあるのであれば)も含めた治療の終了や終末期医療への移行を考えます。

積極的治療を望む場合に、Intensive careだけでなく、さまざまな医療的介入に応用できるかもしれません。ただし、何をいつまでに確認するかについてきちんと共有しておく必要があります。


4)TRANSITIONING TO HOSPICE CARE

本邦では特に非がん患者さんのホスピスへの入院/入所は稀です。

感染症による苦痛に対して抗菌薬が有効か無益かどうかということも考える必要があります。

UTIに対する抗菌薬治療は積極的治療の範疇ですし、皮膚や消化管などその苦痛を生んでいる症状が感染症由来であれば治療することのメリットはあるものと考えられます。

一方で肺炎に対しては抗菌薬治療で症状が緩和されないばかりか、苦痛を長引かせる可能性が示されています。

緩和が目的であれば積極的な解熱剤や麻薬などの使用により抗菌薬治療よりも苦痛を緩和できる可能性があります。また抗菌薬治療を行うことで不必要に入院期間を延長させ、自宅で家族と過ごす期間を短くしてしまうこともあります。

内服できるのであれば経口抗菌薬(こういうときこそ“キノロン”が役にたつ!)が優先されますが、そもそも経口できないような全身状態の場合抗菌薬投与のメリットも小さい可能性があることを考慮すべきかもしれません。



ここで紹介されているのはがん患者さんの終末期における感染症の考え方であり、老衰としての終末期肺炎とは少し様相が異なるでしょう。とはいえIllness trajectoryは違っても根底にある考え方には共通するものがあると思います。

「すべてやってほしい」が本当に「すべて」であることは必ずしも多くなく、よくなってほしいが苦痛は回避したいということがほとんどではないでしょうか。Time-limited trialを取り入れたりしながら、終末期と判断していても治療を諦めているのではなく、目標を共有して十分な緩和を行う/行っていることを理解していただくことも重要です。


肺炎の場合も、時にオピオイド・鎮静薬を使用したり(入院のみですが)、解熱剤(アセトアミノフェンが無効や使いにくい時はステロイドも)やブチルスコポラミンなども使用しながら抗菌薬使用は終了していくなんてことも考えたいですね。


さて、終末期肺炎について日本語の最良なテキストといえば、やはり「終末期の肺炎」(寿司本)です(参照:終末期の肺炎)。

肺炎ガイドラインは改訂されましたが、ここで改めて「寿司本」を手に取っていただくのも良いと思います。


by vice_versa888 | 2024-03-22 16:42 | その他 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888