肺炎診療ガイドライン改訂に関連した記事
いずれも思った以上に閲覧いただいたようでありがとうございます。
やはり誤嚥性肺炎の治療に関して興味をもっていただいた方が多かったようです。
特にERJのこちらの論文
その1:嫌気性菌とは?
嫌気性菌とは生育に酸素を必要としない菌のことです。
酸素の利用が可能な通性嫌気性菌(大腸菌など)と大気レベルの酸素で死滅してしまう偏性嫌気性菌に分けられ、特に断りがなければ後者をいわゆる嫌気性菌と呼称します(耐気性嫌気性菌というのも定義されていますが省略)。
一口に嫌気性菌と行っても、グラム陽性球菌(Peptostreptococcus など)、グラム陽性桿菌(Clostridium など)、グラム陰性球菌(Veillonella など)、グラム陰性桿菌(Bacteroides など)と様々です。スピロヘータも嫌気性菌に分類されます。
これらの菌は常在菌として口腔内や消化管粘膜、膣粘膜などに存在しています(好気性菌の10-1000倍)が、正常な粘膜が障害された場合などに病原性を発揮することがあります。通常の生息地から離れた場合 (C. perfringens とかC. botulinum みたいに経口感染するものも)や、外傷や閉塞、外科的操作により局所的な酸素供給が停止 するとそこで増殖し感染症を発症します。
難しいのは、1)常在菌である、2)多くは病原性が明らかでない、または弱いために、検出されたとしてもどの程度病態に関与しているのかわからないということです。一方でそもそも通常の検査で検出が難しいこともあるので、我々は嫌気性菌の関与を想定して 治療選択を行わなければいけないということです。
その2:いわゆる嫌気性菌をカバーする抗菌薬
上述したように嫌気性菌には多くの種類があります。口腔粘膜などに定着しているような嫌気性菌は通常ペニシリンに感受性のものが多く、なんでも効きます (スピロヘータも)。しかし、一部の嫌気性菌(代表的なのはBacteroides などの嫌気性グラム陰性桿菌)はβ-ラクタマーゼをもっており、ペニシリンが効きません。
したがって、嫌気性菌一般に効果があるいわゆる「抗嫌気性菌薬」とはこれらのβ-ラクタマーゼに対して安定、または異なる機序で作用する薬剤ということになります。加えて膿瘍など嫌気的な環境での移行性や効果も重要です。
<代表例>
・メトロニダゾール(MNZ)
・クリンダマイシン(CLDM)
・βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系抗菌薬
アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)、アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)、ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)
・第2世代セファロスポリン(セファマイシン系)
セフメタゾール(CMZ)
・カルバペネム系
・キノロン系
その3:嫌気性菌カバーが必要な感染症
上述しましたが、嫌気性菌を同定できない、または常在菌であるため検体によっては関連が必ずしも断定できないため、我々は嫌気性菌が関与している可能性を見積もって抗菌薬選択を行なっています。
基本的な考え方は上で示した通りで
1. 本来の生息地から離れた場合
頭頸部感染症は歯性感染症などを背景に口腔内の嫌気性菌を含む菌が、
二次性腹膜炎や術後感染症、骨盤炎症性疾患では腸管内の菌が、本来の居場所ではないところへ移動し感染を起こします。
2.膿瘍
肺膿瘍、腹腔内膿瘍などは1に続発して膿瘍化しますし、脳膿瘍が代表ですが血行性に膿瘍を形成している場合もprimaryが歯性感染症など嫌気性菌の粘膜からの侵入だったりします。
肛門周囲膿瘍は直腸粘膜の嫌気性菌が関与していると考えます。
3.閉塞
胆管炎や閉塞性肺炎などでは局所に嫌気的な環境が形成され、嫌気性菌が感染に関与していることを想定しますが、通常あっても混合感染でありドレナージして閉塞が解除されれば必ずしも嫌気性菌カバーは必要ないかもしれません。
4.外傷
創部の汚染やヒト・動物咬傷ではカバーが必要です。
5.壊死、血行障害
壊死組織感染、褥瘡などでは嫌気性菌の関与を想定します。
治療の上では、ここに挙げた嫌気性菌リスクのある状態を解除することが最も重要 であり、早期かつ適切なドレナージ、デブリードマンが最も重要な治療です。
その4:嫌気性菌カバーの害
嫌気性菌は重要な常在細菌叢を形成する菌です。不必要に嫌気性菌を叩いてしまうことで、正常な常在細菌叢(特に研究が進んでいるのは腸内細菌叢)を障害し、病原体の増殖を助長し、重症患者におけつ人工呼吸器関連肺炎や死亡リスクに関連するのではないかと言われています。
はじめに紹介したERJの論文では、重症患者における大規模な後方視的コホート(ICUに入室し72h以上人工呼吸器が装着されており、その前から抗菌薬投与を受けていた)で抗嫌気性菌薬を使用した群とそれ以外の抗菌薬を使用した群を比較し、抗嫌気性菌薬の使用がVAPや感染症発症、生存率に関連していたことが示唆されました。動物モデルの検証も添えられ、この差が単に感染症に関連したリスクの上昇だけではなく、腸内細菌叢の変化を伴う非感染性イベントのリスク上昇に関連している可能性が指摘されています。
この研究の解釈を困難にしているポイントが、この研究で「抗嫌気性菌薬」と位置付けられた抗菌薬に上記の薬剤以外にペニシリン系やセフトリアキソンが入っていることでした。実際に内訳をみると抗嫌気性菌薬投与群の12%がセフトリアキソンの投与を受けていました(多くはMNZやPIPC/TAZ)。セフトリアキソンも腸内細菌への影響が大きいだろうということはその通りだと思うのですが、だとしたらセフェピムは良いのか?ということが大変疑問です(当然Letterでもこうしたことは指摘されています)。
そもそもの抗菌薬選択の背景に未調整の交絡因子がある可能性は十分にあり、2群の差が事実を反映したものかどうかはまだわかりません。ただし、不必要な嫌気性菌カバーは避けるべきだという考えは妥当 なものだと思います。
その5:本当に嫌気性菌カバーは必要なの?
PIPC/TAZとカルバペネムの投与例は除外されており、おそらく重症や耐性菌リスクが高いと判断されている症例は含まれていません。
またそれ以外にもどうしても背景因子で調整困難な抗菌薬選択に関連する交絡因子がありそうです。
一般化可能性としては今ひとつですが、少なくともドレナージされた胆管炎で背景因子(腫瘍など)がなければ大腸菌をターゲットとした治療戦略も安全なのではないかと思います。
誤嚥性肺炎については、
前回の記事 でも書きましたがルーチンの嫌気性菌カバーは不要と考えられます。
いずれも嫌気性菌カバーを外してよい十分な証拠が不足していることは事実であり、きちんと前向きに評価を行う必要があることに異論はありません。しかし背景と病態を考えて嫌気性菌カバーをしない、あるいはより狭域な選択をすることは十分許容される(むしろベターである) と思います。
一方、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンやセフメタゾール、カルバペネムなどは、嫌気性菌カバーというよりも耐性グラム陰性桿菌を想定して/標的として投与されることが多く、単純に嫌気性菌の関与の有無だけで「抗嫌気性菌薬」を避けることは難しいです。このため特に医療関連感染症ではなかなか嫌気性菌カバーを外すことは実際のところ難しいです。
したがって嫌気性菌カバーを外すことというよりも、
1)嫌気性菌カバーが必須な病態を知る
2)嫌気性菌をカバーする抗菌薬を漫然と使用しない
ことがむしろ重要なのかもしれません。
2)のためには単純に抗菌薬投与期間を短くするだけでなく、菌の供給を減らすこと、少しでも常在細菌叢を回復させることを考え、十分なドレナージ(肺炎なら痰の喀出を含む)、口腔ケア、歯科治療、早期離床、早期栄養、早期経口摂取など総合的な介入が必要であることはいうまでもありません。
まとめ
○嫌気性菌は常在細菌叢を構成する重要な要素の一つ
抗菌薬投与は常在細菌叢の破綻を介して、感染/非感染性合併症や死亡にも影響する可能性がある
○膿瘍、閉塞、壊死(血行障害)、汚染創 で嫌気性菌の関与を想定する(基本は混合感染)
○逆にこうしたリスクを早期に排除できれば安全に嫌気性菌カバーを外せるかもしれない
Drainage!Debridement!
○誤嚥性肺炎でルーチンの嫌気性菌カバーは不要
○漫然と広域・長期に抗菌薬を使用しないことが最も重要
そのために口腔ケア、リハ、栄養 など総合的な介入を
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