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重症熱性血小板減少症候群:SFTS

実に4ヶ月ぶりのブログ更新です
(比較的ライト、雑多な内容はnote(https://note.com/md_dilemma/)にまとめることにしました)

重症熱性血小板減少症候群:SFTS_e0398744_16154781.png

今回とりあげるのは重症熱性血小板減少症候群(SFTS)です。
基本的な内容は診療の手引き(国立国際医療研究センター 国際感染症センター国際感染症対策室のResourceにあります)に記載されていますので、こちらを参照ください。

日本における代表的なダニ媒介性疾患には、1)つつが虫病、2)日本紅斑熱、そして3)SFTSがあります。
(これ以外にもライム病(主に北海道)、B. miyamotoi感染症(これも北海道)、ダニ媒介性脳炎、エゾウイルス、オズウイルスなど。特に近年新興オルソナイロウイルスが発見、ないし人への感染が発見されているため注意が必要です。)
多くは西日本で、春から秋にかけて報告されていますが、人の移動や他のダニ媒介感染症の疫学が変化しつつある現状、東日本でも無視できない感染症と考えています。

【臨床像・検査】
SFTSはBandavirus dabieense(俗名としてSFTSウイルスと呼称される)がダニ(フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニ)の刺咬・吸血によりヒトへ、あるいは感染した伴侶動物(イヌ・ネコなど)を媒介し感染します。

痂皮や刺咬痕を見つけることは少ないが、通常6-14日間の潜伏期後に発熱、倦怠感、頭痛などの症状で発症し、その後消化器症状が認められます。日本における研究(後ろ向き観察研究)では、その多くに発熱、倦怠感、消化器症状、下痢を認め、この研究における致死率は31%でした(PLoS One. 2016;11(10):e0165207.)。この研究では致死例で見当識障害や神経学的所見を多く認めています(臓器障害の一つと考えるべきでしょう)。第7病日に臓器障害を呈しやすく、高ウイルス血症や高サイトカイン血症に伴うもの、これに続発した免疫不全による二次感染などが問題となります。

ウイルス感染症であり、検査データとしては血小板減少、白血球減少やトランスアミナーゼ(AST/ALT)上昇、重症例(血球貪食症候群など)ではsIL-2Rやフェリチンの上昇が顕著です。一方でCRPが比較的低いです(非重症では)。尿蛋白、潜血はほとんどの症例で認められます。末梢血にB細胞由来の異形リンパ球(=感染細胞)が認められることもあります。

保険収載されている検査法はなく、行政検査として地方衛生研究所に保健所を通じて検査を依頼します。ダニ媒介感染症の可能性があると判断したら血液(分離は必要でない、血清用を用いる)や尿を採取しておき、症例によってリケッチア感染症の検査・治療も合わせて行います。感染症法による4類感染症なので診断したら全数届出が必要です。

【治療】
今年(2024年)6月にアビガン®︎(Favipiravir)が治療薬として承認されました。
「1日目は1回 1,800 mg を 1 日 2 回,2 日目から 10 日目は1回 800 mg を 1 日 2 回経口投与する.総投与期間は 10 日間とすること」と記載されています(2024年現在、1錠200mgで薬価3万9862.50円となっています! )。
処方にあたっては禁忌項目の確認はもちろん、研修を受けて登録された医師のみが処方できる薬剤(e-Learningが必要)です。
背景となった臨床試験を示します。
本邦で行われた多施設非盲検非対照単群試験です(つまり全員に実薬が投与)。 23人に投与され、全生存率は82.6%(日本の一般的な生存率を考えると10%くらいの生存率上昇に寄与している可能性)。生存患者は投与後経時的に血中ウイルス量が減少していたが、死亡例では認められなかった。

中国で行われた単群試験(N=428)、観察研究(N=2350)、単盲検ランダム化比較試験(N=145)の統合解析。Favipiravir群と非投与群を1:1に傾向スコアマッチングし、致死率が9.0%(35/390)対20.0%(78/390)であった。ただし、70歳以上のグループでは致死率に差異を認めなかった。副作用としてはFavipirvir群で嘔吐や下痢の頻度が多く、発現タイミングが早いこと、トランスアミナーゼ上昇(ただし、ウイルス感染に伴うものと区別は困難)もやや多かった。このような結果から、診断後より早期のFavipirvir投与が望ましいことが推測されますが、診断までにも時間を要することが大きな問題です。

ステロイドの投与についてはPros/Consありますが、少なくとも現在のデータからは積極的に指示する根拠は乏しいと言えます
(J Infect Chemother. 2023;29(5):490-494.)

特にSFTSにおいては、重症の細菌感染症や真菌感染症を合併することがしばしばあり、ステロイドがマイナスに働いてしまうことが懸念されます。ただし、重症の血球貪食症候群を合併した場合では使用せざるを得ない状況もあるかと思います。COVID-19もそうでしたが、高サイトカイン血症を伴うウイルス血症においてもしかしたら非パルス、比較的短期間投与なら恩恵を得られるのかもしれません

(Int J Infect Dis. 2023:130:153-160.)。


同じく、COVID-19からの知見として、抗体薬を使って病勢をコントロールしようとする試みがあります。

Ge HH, Cui N, Yin XH, et al. Effect of tocilizumab plus corticosteroid on clinical outcome in patients hospitalized with severe fever with thrombocytopenia syndrome: A randomized clinical trial. The Journal of infection. 2024;89(1):106181.
【背景】重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) は、致死率の高い新興ウイルス性出血熱である。炎症性サイトカインの阻害は、有望な治療戦略となる。
【方法】河南省信陽市第154病院でランダム化臨床試験を実施した。重症SFTS患者を1:2の割合でtocilizumabの単回静脈内投与と通常治療(ステロイド)、または通常治療のみを受けた群の2つにランダムに割り付けた。主要評価項目は14日目の死亡/生存、副次評価項目は肝障害および腎障害のベースラインからの改善と退院に要した時間であった。

※重症の判定は筆者らが以前に行った研究から算出されたスコアを用いている(スコア>8)

Lancet Infect Dis. 2018;18(10):1127-1137.

年齢、神経症状、LDH、AST、BUN、好中球(%)の6つからなる通常治療にはT-705(Favipirvir)やステロイド、その他の指示療法が含まれている。デキサメサゾン7.5mgかメチルプレドニゾロン40mgが使用されたようです。

【結果】63名がtocilizumab群に、126名が対照群に割り当てられた。通常治療にtocilizumabを追加した場合、通常治療のみを受けた患者(23.0%)と比較して死亡率が低下(9.5%)し、調整ハザード比(aHR)は0.37(95%CI、0.15~0.91、P = 0.029)であった。tocilizumabとコルチコステロイドの併用療法では、コルチコステロイド単独を受けた患者と比較して、死亡率が有意に低下した(aHR: 0.21、95% CI、0.08~0.56、P = 0.002)。

※わかりにくいが、ランダム化された後に、ステロイド投与例のみを事後解析し、ステロイド vs. ステロイド+tocilizumabを1:1 でlog-rank/K-M曲線を作成している。

【結語】 tocilizumabの使用により、重症 SFTS 患者の死亡率を大幅に低下させる効果が認められた。重症 SFTS の治療には、tocilizumabとコルチコステロイドの併用療法が推奨される。

実際のところ、この研究からステロイドが必要なのかどうかはわからないのですが、tocilizumabがSFTSの死亡率を低下させる可能性がある(重症例で致死率1桁というのは脅威的ではある)と言えそうです。二次感染については言及がないです。特に14日死亡率を用いていますので、免疫抑制薬投与後の二次感染で難渋した、亡くなった患者さんはわからないので解釈に注意が必要そうです。


【感染対策】
またSFTSは感染管理上も注意が必要で、体液曝露による医療従事者への感染が多く報告されています。
マスク、アイガード(ゴーグル、フェイスシールド)を含む適切な個人防護具の着用が必須です(基本は接触感染予防策)。陰圧管理は不要ですが、エアロゾル発生手技ではN95マスクの着用も考慮します。

まとめ
◯ダニ媒介性疾患は新興・再興(というより疫学の変化)感染症として今後より重要な疾患となることが予想される
◯しかしながら個人が経験することはそう多くない(地域にもよるが)ため、疾患を想起できないと診断・治療が困難
◯SFTSに対するFavipirvirの適応追加はダニ媒介性疾患に注目してもらう一つのきっかけになるかも
◯重症SFTSに対する治療はまた模索中...。適切な抗炎症薬の使用は予後を改善しうるかもしれない。

by vice_versa888 | 2024-09-12 16:12 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888