人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Say it ain’t Steno!

2025年最初の記事です。今年もよろしくお願いします。


目的:Stenotrophomonas maltophilia(SM)の呼吸器培養検査による、保菌患者の抗生物質使用への影響を記述する。

患者:ミシガン州の5つの急性期病院で行われたpre-postの実験敵な研究。2022年1月1日~2023年1月27日(ナッジ前)および2023年3月27日~12月31日(ナッジ後)にStenotrophomonas maltophilia(S. maltophilia)の呼吸器培養が実施された成人患者。 市中/院内/人工呼吸器関連肺炎の患者、または培養時にS. maltophiliaを対象とした抗生物質が投与された患者は除外された。

方法:2023年2月にナッジコメントが実装され、「S. maltophilia は呼吸器系に頻繁に定着(colonization)する。臨床的に合致する所見が必要。定着に対しては抗生物質治療は必要ない」と記載された。主要評価項目はSM療法による治療がなかったことであり、副次評価項目はSM療法による治療が72時間以上行われたこと、入院期間、院内での全死因死亡率であった。安全性の評価項目には、抗生物質に関連する有害事象(ADE)が含まれた。

結果:94人の患者が対象となった(53人(56.4%)が事前、41人(43.6%)が事後)。ほとんどの患者は男性(53人、56.4%)で、基礎疾患として肺疾患(61人、64.8%)があり、侵襲的呼吸器管理(70人、74.5%)が必要であった。11人(11.7%)の患者は長期療養施設に入所していた。72時間以内にSM療法を受けなかった患者は、ナッジ前では13人(23.1%)で観察されず、ナッジ後では32人(78.0%)で観察された。副次的な結果に違いは認められなかった。SM療法を72時間以上受けた患者では、抗生物質関連の有害事象がしばしば認められた(33/41、76%):体液過剰(18人、44%)、低ナトリウム血症(17人、42%)、血清クレアチニン上昇(12人、29%)、高カリウム血症(5人、12%)。交絡因子を調整した後、SM治療なしのオッズは、ナッジ後では11倍に増加した(adjOR、11.72;95%CI、4.18-32.83)。

結論:SMのナッジは、患者の転帰に大きな変化はなく、colonizationへの治療を大幅に減少させることが分かった。SM治療を受けた患者は、抗生物質関連の有害事象を頻繁に認めた。


ナッジ(nudge)とは、「軽くつつく、行動をそっと後押しする」という意味であり、「経済的なインセンティブや行動の強制をせず、人々が自発的に行動変容を起こすよう促す戦略・手法」のことです。

今回は個別のケースに対して介入するのではなく、そっと行動変容を促すように「S. maltophiliaのほとんどは定着(colonization)であり、治療をするべきかどうかは患者の状態をみてね」といった介入を行ったものです。もちろん実験的な要素の大きいpre-post研究ですので、これをもってこうした介入が有効であるとは言えないものの、強制力がなく、安全性の高い介入ですので、実装は可能な手法であると考えます。

またS. maltophiliaがそこまで検出頻度が高い菌でなく、一般臨床家にとってそれほど馴染みのない菌であること(=学習効果も高い)、そして治療の中心がST合剤になりますので、副作用が問題となりやすいことの2点が、介入による効果をより大きくする要素だったのではないかと思います。

もちろん同様に無菌検体以外のカンジダや、非挿管患者(肺化膿症はまた別)の気道検体のMRSA、無症候性細菌尿などへ適応を広げることも可能です。ただし、こちらはより馴染みがあるために学習効果はそれほど大きくないかもしれません。

Diagnostic Stewardshipとして、検査結果をどのように返すか、伝えるかといったことが課題となっています。治療対象とならない病原体はあえて詳細な結果を反映させないということも一つの介入の方法です。ただ、臨床検査技師側には臨床情報がないので、その病原体情報がどこまで有益/無益なものかの判断が困難であるという点が課題です。臨床検査技師と治療を行う主治医との間に、両者の専門的な知識・情報を統合し解釈できる医師(=つまり感染症医)が常に介在できればよいのかもしれませんが、すべてのケースに介入を行うことは困難です。

また臨床家側が「ニーズを感じていない」ところに我々が土足で踏み込むような行動は、それがどんなに正しくてもうまく伝わるわけがありません。

本研究のような「ナッジ」は、(対象を選べば)有効な介入となりうるかもしれませんね。


by vice_versa888 | 2025-01-12 12:57 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888