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侵襲性肺アスペルギルス症 診断から治療まで

○診断

【背景】侵襲性肺アスペルギルス症 (IPA) はかつては免疫不全患者に限定されていたが、現在では典型的なリスク要因のない重篤な ICU 患者における重篤な合併症となっている。組織学的証拠を得ることが難しいため、その診断は実際の状況で十分にテストされていないアルゴリズムに依存している。

【方法】 IPA 患者 202 名(IDコンサルタントが診断、かつ独立したIDおよびICUの専門医によって最終確認)を対象に後ろ向き多施設 (n=9) コホート研究を実施した。患者は、European Organization for the Research and Treatment of Cancer/Mycosis Study Group(EORTC-MSG)、Invasive-Fungal Diseases in Adult Patients in Intensive Care Unit (FUNDICU)、Aspergillus ICU (Asp-ICU)、Asp-ICU with biomarkers (Asp-ICU-BM)​​ 基準に基づく多段階プロセスを使用して分類された。次に、臨床コホートおよび組織学的に証明された症例に対してこれらの基準の予測性能を評価した。

※FUNDICU(Intensive Care Med. 2024)
IPAを疑う症状を認めた上で、
宿主因子として、インフルエンザ、COVID-19、中等度/重度のCOPD、非代償性肝硬変、CD4細胞数<200/mm3の制御不能なHIV感染、固形腫瘍
少なくとも1つの臨床基準(BF所見/CT)と少なくとも1つの細菌学的所見(BALF培養、血清/BALFガラクトマンナン抗原)を満たすもの
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※Asp-ICU(Am J Respir Crit Care Med. 2012)
(ProvenはEORTC-MSG基準と同様)
(疑い)
1.下気道検体培養からアスペルギルスを証明
2.症状
3.CT所見
4. 4aか4bを満たす
4a.宿主因子として好中球減少症がある、殺細胞性抗がん剤治療を行なっている悪性腫瘍、ステロイド治療(PSL>20 mg/日)、先天性・後天性の免疫不全
4b.半定量的アスペルギルス陽性培養陽性・スメアで糸状菌を証明、しかし培養陰性
上記+血清/BALFガラクトマンナン、血液/BALF-qPCR

注:CT所見はcriteria間で少し異なることに注意

【結果】202人の患者のうち、78人がEORTC-MSG宿主因子を有し、EORTC-MSG基準は臨床的および組織学的に証明された症例の特定において100%の一致を達成した。EORTC-MSG宿主因子のない112人のICU患者では、臨床コホートと比較して、FUNDICUで53%、Asp-ICUで4%、Asp-ICU-BMで26%の全体的な一致率であった。組織学的に証明された症例に対する検証では、FUNDICUの感度44%・特異度75%、Asp-ICUの感度6%・特異度100%、Asp-ICU-BMの感度28%・特異度63%であった。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と心臓手術後をFUNDICU基準に追加すると、感度は97%、特異度は63%に向上した。残りの 12 人の患者は EORTC-MSG 宿主因子を欠いており、ICU には入室していなかったため、新しい分類システムの必要性が強調された。

【結語】EORTC-MSG および FUNDICU IPA 分類システムは、ほとんどの IPA 患者の分類に有用である。心臓手術後の術後合併症と ARDS を組み込むことで、FUNDICU の診断精度が向上した。

EORTC-MSGの宿主因子は好中球減少症、造血悪性腫瘍、同種幹細胞移植、固形臓器移植、長期コルチコステロイド使用、免疫抑制剤、重度の免疫不全、グレード III/IV の急性移植片対宿主病などが含まれます。 (参考:深在性真菌症の診断(EORTC/MSG診断基準改訂) 侵襲性気道・肺糸状菌症 )
全員になんらかのIPAを疑うようなCT所見があったようですが、ガラクトマンナン抗原>1.0は25%のみであり、BALFのガラクトマンナン抗原やPCR、培養検査およびそれらの組み合わせが確定診断に寄与した印象です。

EORTC-MSGの宿主因子を有さないICU症例について、背景因子として特筆すべきなのはCOVID-19:26人(23%)とインフルエンザ:17人(15%)です。
このため、FUNDICU基準はIPAの臨床診断と53%の一致を示しましたが、定義された宿主因子がない、CTスキャンがないために患者のほぼ半数が分類不能とされてしまいました。ここにARDSと心臓手術後という背景因子を新たに加えることで診断精度が向上しました(感度は97%、特異度は63%、AUROC=0.8)

またEORTC-MSG リスク要因がなく、ICU 外で治療を受けた 12 例も、全員が慢性閉塞性肺疾患、転移性肺癌、または長期PSL (<10 mg/日))による間質性肺疾患/肺線維症など、IPA の潜在的なリスク要因を有していました。

以上からわかることとしては
1)ガラクトマンナン抗原は感度の上昇に寄与するが、非特異的な上昇が多い→積極的な気管支鏡検査!
2)非好中球減少症例の背景因子が多様化している→包括的な背景因子の設定(その分、重み付けがあってもよいかも)
といったところでしょうか。

○治療

CQ1:IPAの治療にはトリアゾール系抗真菌薬単剤とトリアゾール系抗真菌薬+エキノキャンディン系抗真菌薬の併用とどちらが望ましいか?
・一方のアプローチが他方より優れていると判断するには不十分
・重症あるいはトリアゾール耐性の懸念がある場合には、併用療法がより適切である
3つの観察研究と1つのRCTが組み込まれていますが、このエビデンスのみから結論を導き出すことは困難です。
重症例や耐性を疑う例での併用療法を、というのもエキスパートオピニオンに基づく推奨のようです。
また血液悪性腫瘍および造血幹細胞移植患者におけるデータに基づくため、この推奨を他の背景疾患をもつ患者に適応できるかどうかについても明らかではありません。

個人的には重症例(特に呼吸・循環状態が不安定な場合)では併用療法を行うことを提案することが多いです。後がないこともそうですが、アゾール系抗真菌薬の血中濃度が安定するかどうかやしばしばその副作用が問題となることから、確実な治療継続を考えると併用の方が望ましいと考えています。

CQ2:好中球減少症がなく、移植を受けていない重篤な患者の場合、死亡率を下げるために予防または経験的治療として全身抗真菌剤を投与すべきか?
・好中球減少症や移植歴のない重症患者には、カンジダ属を標的とした予防的または経験的抗真菌剤のルーチン投与は推奨されない
(質の低いエビデンスに基づく条件付き推奨)
予防または経験的抗真菌療法を評価した8つのメタアナリシスが行われましたが、そもそもどのRCTも有意な結果が得られておらず(I2=0)、エビデンスの確実性は低いとはいえ、少なくとも死亡をアウトカムとした場合には予防的な治療に意味がないことは間違いなさそうです。
一方でハイリスクグループにおいては、カンジダの血液培養陽性率が高くない一方、死亡率が高いために、probableにβ-D-グルカンやT2カンジダが入っているように (参考:深在性真菌症の診断(EORTC/MSG診断基準改訂) 侵襲性カンジダ症 )先制攻撃的な治療が推奨されています。

好中球減少症や移植歴のない重症患者における抗真菌薬の投与には、実際には状況に応じた個別の対応が必要です。待てるなら証拠を集めますが、待てなければ治療を始めながら証拠を積み重ねることも考えます。最も重要なことは一つでも侵襲性カンジダ症のリスクを減らすことだろうと思います。

by vice_versa888 | 2025-01-18 21:34 | 呼吸器 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888