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Candida血症に対する抗真菌薬選択

最近議論があったのでこちらを選びました。
ちなみにカンジダ菌血症の基本的なところは以前の記事(カンジダ菌血症でルーチンの眼科診察は不要?)にまとめていますのでご参照ください。

Vena A, Bartalucci C, Muccio M, et al. Comparative effectiveness of echinocandins and liposomal amphotericin B for fluconazole-resistant Candida parapsilosis bloodstream infections. Antimicrobial agents and chemotherapy. 2025:e0035525.

【背景・目的】フルコナゾール耐性C. parapsilosis血流感染(FLZR-CP BSI)に対する現在の治療選択肢は、エキノキャンディン系薬剤とリポソーム化アムホテリシンB(L-AmB)に限られている。我々の知る限り、これらの薬剤を評価した実臨床における比較有効性研究は存在しない。本研究はFLZR-CP BSI治療におけるエキノキャンディン系薬剤とL-AmBの有効性を比較することを目的とした。

【方法】この後ろ向き観察研究は2018年1月から2022年12月にかけてイタリアの2施設で実施された。対象患者は、微生物学的に確認されたFLZR-CP BSIを有する成人(18歳以上)で、エキノキャンディン系薬剤またはL-AmBによる標的療法を受けた患者とした。患者は、年齢、Charlson合併症指数、敗血症または敗血症性ショックの有無、適切な抗真菌療法開始までの時間(診断から48時間以内または48時間超)、感染源に基づき2:1でマッチングした。

【結果】63例が対象となった(エキノキャンディン群42例、L-AmB群21例)。Cox回帰分析において、エキノキャンディンによる標的療法は死亡率上昇と関連しなかった(調整HR 1.40;95%信頼区間[CI] 0.33-5.92、P = 0.645)。感染源制御を受けなかった患者を含む探索的感度分析でも同様の結果が得られた(P = 0.491)。さらに、多変量回帰分析においても、エキノキャンディン治療は持続性真菌血症のリスク増加と関連しなかった(調整HR 1.61:95% CI 0.43-5.99、P = 0.476)。エキノキャンディン系薬剤とL-AmBは、FLZR-CP BSI患者において、30日死亡率および持続性真菌血症発生率が同等であった。

【結語】これらの知見は、エキノキャンディン系薬剤がフルコナゾール耐性株を有する患者においても、C. parapsilosis 血症に対する有効な治療選択肢であることを裏付けるものである。


執筆時点でカンジダ症の診療に関する最も新しいグローバルガイドラインはこれです。
Global guideline for the diagnosis and management of candidiasis: an initiative of the ECMM in cooperation with ISHAM and ASM
最も参照されるのはIDSAガイドラインですが、最新版が2016年とやや時間が経ってしまいました。

ちょっと稀なカンジダまで含めて表にまとめました。
稀なものはOverview on the Infections Related to Rare Candida Speciesも参考に作成しています。
(AIの力も借りたので間違いがあれば教えてください)
Candida血症に対する抗真菌薬選択_e0398744_14163050.jpg
C. parapsilosisはこの表でもまとめたようにエキノキャンディンに対するMICが他のカンジダと比べると高いです。
だからといって特別治療失敗が多いとはいえないのですがデータが乏しいので、FLCZが使えない場合にどうするのが適切かという問いに答えようとしたのが今回の研究です。ちなみにこの研究で使用されたキャンディンの大半はカスポファンギンです。マッチしているとはいえ、エキノキャンディンの選択に対するバイアスは否定できません。また眼内炎の合併はほとんどなかったようです。
以上から、FLCZ耐性でもC. parapsilosisに対してエキノキャンディンは安心して選択可能だろうと言えます。

Q. 血液培養から酵母様真菌(yeast)が検出。とりあえずエキノキャンディンで良い?
A.多くの場合問題ないが、例外があることに注意が必要

表に示した通り、カンジダ菌血症であれば初期抗菌薬はエキノキャンディンで良いです。
ただ、酵母様真菌はカンジダだけではありません。
クリプトコックス(Cryptococcus neoformans/gattii)、TrichosporonRhodotorula mucilaginosa、Malassezia furfur、Saprochaete/MagnusiomycesSaccharomyces cerevisiae/boulardii、など比較的稀な真菌では、エキノキャンディンが無効です。上記のほとんどはAmB製剤±5-FC(Trichosporonはアゾールを選択)が第一選択になります。
(稀な酵母様真菌のガイドライン:Global guideline for the diagnosis and management of rare yeast infections: an initiative of the ECMM in cooperation with ISHAM and ASM)
また必ずしもアゾールやエキノキャンディン投与中のブレイクスルー感染症として発症するだけでなく、カテーテル感染などで発症することがあることに注意が必要です。
そう言った意味でも、まずはソースコントロールですね。

Q.眼内炎の場合の治療選択は?
A.アゾールを選択することが多いが、菌によってはAmB製剤を選択する

エキノキャンディンの最も大きな問題点の1つは眼内移行が良くないために眼内炎で使用できないことです。
多くはフルコナゾール(FLCZ)やボリコナゾール(VRCZ)を選択しますが、問題はその菌がアゾールに感性があるかどうかということになります。
C. glabrataC. kruseiでは菌名が判明した時点でアゾールが選択しにくくなります。
ですので、1)早く菌を同定すること 2)眼内炎の有無をなるべく早く確認すること、が必要です。

1)について、質量分析やMultiplexPCR(FilmArrayなど)が使用可能な施設では積極的に運用することになります。
参考所見として、古典的にはC. glabrataの培養陽性までの時間が長いことが有名ですが、最近はボトルの改良で改善しつつあるそう。
またC. glabrataは嫌気ボトルで先に検出される、あるいは嫌気ボトルのみ陽性となる例が一定数あることも重要な状況証拠です。

2)についても案外悩ましい問題です。
以前の記事(カンジダ菌血症でルーチンの眼科診察は不要?カンジダ症患者における眼カンジダ症のスクリーニング 診療を変える時期が来たか?)でも話題にしましたが、どんな患者にいつ眼科診察を行うかまだ明確なエビデンスはありません。上記の様に治療選択肢に影響するため早期に確認したい一方で、初回診察で異常がなくても後で眼内炎が明らかになることもしばしばあるため注意が必要です。
私個人としては、カンジダ血症はなるべくルーチンで早期の眼科診察をお願いし、できれば1週間後に再検査(それまでに菌名や持続菌血症かなどの情報もそろってくる)をお願いしたいと考えています。


まとめ
◯酵母様真菌血症の初回治療はエキノキャンディンでよいが、
稀な真菌の場合(=L-AmBを選択)もあるので注意
◯眼内炎の有無でアゾールを選択するかどうかが変わるので、
眼科診察を積極的に依頼 できれば2回以上


by vice_versa888 | 2025-10-12 15:48 | 感染症全般 | Comments(0)

私見と自分の勉強のための備忘録です(感染症を中心に呼吸器および内科全般)。何か間違いがあればご指摘いただければ幸いです。臨床と研究、GeneralistとSpecialist、仕事と家庭、理想と現実。最適解がわからずいつも悩んでいますが、揺れ動く自分の立ち位置を確かめながら前進したいものです。


by vice_versa888